- ナノ -


木ノ葉隠れ創設編

-はじめてを、ぜんぶ-


『マダラ…』


センリが色事に慎重過ぎる事くらい最初から覚悟していたし、センリと共に過ごしていく事は長期戦になるだろうとは思っていた。しかしこのセンリの告白からすると俺が想像していたよりも、俺は、我慢しなくてもいいらしい。

少し安心した様に微笑むセンリの頭を引き寄せ、もう一度口付けをする。

センリの唇は驚くくらい柔らかで、強く触れればそれで避けてしまいそうな程薄い皮膚で出来ているようだった。それなのに弾力があって、一度口付ければ離れられなくなってしまいそうな唇だ。暫く触れるだけの口付けを落としていたが、途中センリがふ、と吐息を漏らした途端、俺は収まりがつかなくなる気がした。


『マダラ、』


唇が離れた瞬間センリが少々掠れた声で俺の名前を呼び、服を握っていた手が離れ、長い前髪を耳にかけられた。センリの手が耳を掠める時にぞくぞくとしたものが背中を走った。
俺の体は酒が入ってるから火照っていて当たり前だが、同じくらいセンリの指はあたたかかった。控えめに微笑むセンリを見ていとおしさが込み上げてまた唇を重ねた。


柔らかな上唇をそっと舌で撫でるとそれがふるふると一瞬震えた。先程のセンリの言葉は嘘では無かったらしく、俺の事を拒もうなんて思っていないように微かに開いた隙間から舌を差し入れると、思った通り抵抗せずにセンリはそれを受け入れた。

自分よりいくらも小さいセンリの唇から舌を侵入させればセンリの舌はすぐに見付かった。それに触れた瞬間、センリの肩が揺れた。センリの舌を優しく啄けば、かなりおずおずとそれが応える。

センリの舌は恐ろしく甘美だ。唾液は何かの蜜のように甘く、やみつきになりそうな舌の感触。それをもっと味わいたくてセンリの舌の側面を舐め上げると開いた唇の間から吐息が聞こえた。


『は、ぁっ………』


センリは固く目を閉じて、それでも何とか俺の舌に応えようと必死なようだった。蜜のような舌を追いかけるように絡めとれば、センリは俺の首元に置いた手で少し押し返すように力を入れた。

一度口を離すと、センリは荒い呼吸をしながら濡れた瞳で俺を見上げてきた。



『ま、待って……い、息ができないよ……』


蕩けきったような表情、はあはあと呼吸を繰り返す半開きの口から見える赤い舌が妙に艶かしくて俺は喉を鳴らした。初めて見る顔だった。


「お前のこの可愛い鼻は、一体何のためについている?」


俺はセンリの鼻を摘んでみせると、センリは困ったように眉を下げた。

普段あどけなく、純真そのものといったようなセンリの、まるで男を誘惑するようなその顔。その気になれば世の男という男全てを陶酔させてしまいそうなくらい淫な顔だ。愛おしいセンリの、そんな表情を見て、長らく押さえ込んでいた情欲が身を焼き始めた。


『それは…―――んっ、』


センリの肩を掴んで少々強引にソファの上に押し倒した。センリが驚いて声を上げる前にもう一度その口を塞いだ。逃げる様な動きをするセンリの舌を捉えて、その肉の裏側も側面も、熱くなった口内全てをなぞって、舐め上げる。


まるで花の蜜に誘われた、ただの蟲のようだった。
相変わらず荒い息遣いをするセンリだが、それがまた欲望を駆り立てた。俺はこの無垢なセンリを穢す、汚い蟲だ。


そろそろ激しくなってきたセンリの呼吸に気付いて俺は唇を離し、すぐに首筋に口付けた。センリの体が呼吸に合わせて上下し、そしてひくひくと震えた。

センリの肌は赤子のように滑らかだった。
このままだと本当に我慢できそうにない。首筋からも口を離し、センリの顔を見る。酒を飲んでいないのに真っ赤だった。


「センリ、お前は俺に触れたいと言ったな。それは俺も同じだ。だが…それはお前の純真な考えとは少し違う」


センリは呼吸を整えながら俺の目をじっと見つめ、言葉に耳をかたむけていた。


「お前の綺麗な体を…全部俺で染めてやりたい。純粋なお前を穢して汚して、刻み付けてやりたい。お前の全てを…自分のものにしたい」


ずっと前から思っていた。
穢れを知らないセンリの心も体も、全てを自分のものにしたかった。証拠が欲しかった。純粋なセンリを穢したのは自分だと、心にも身体にも、刻み付けてやりたかった。

十中八九拒否される事は分かっていた。汚い俺の中の貪欲な欲望をセンリが受け止められるのかは、あまり期待はしていなかった。


予想していた通りセンリは濡れた瞳を大きく開いて俺を見ていた。やはり、流石に幻滅されたか……。
自分で言って少し後悔していた。いたたまれなくなりセンリから視線をずらしたが、それとほぼ同時にセンリの両手が浮いて、俺の後頭部に差し出されて引き寄せられた。そしてセンリの声がすぐ耳元で聞こえた。


『マダラ………私、マダラになら……なにされたって、いいよ。マダラの事が大好きだから、なにされても嬉しい』

愛する人から聞こえた、この不浄な気持ちを許すという言葉に鼓動がドクンと高鳴る。途端に口の中が乾いてきて自分の口が開かれていることに気づく。


「センリ……」


センリの顔の横についた手に力を入れて再び上半身を起こす。真正面から見下ろすセンリの顔はやはり赤く色付いていて、羞恥心をどうにか押し殺してそう言ったのだという事が分かった。


「そんな事言われたら……もう、我慢は出来ないぞ」


心臓の音が五月蝿い。声が掠れた。全身の血という血が滾った。俺にはもうその欲求を我慢出来るほどの理性を保てるかの自信がなかった。センリのペースに合わせようとは決めていたからそれがこんなに早く来るとは思わなかったからだ。


『が、我慢しないで……私、ちゃんと受け止めるから』


照れくさそうに、しかしやさしく言われてしまえばもう、俺の中に残っている僅かな罪悪感も理性もタガなんてすべて吹き飛んでしまった。センリは自分で何を言っているか分かっているのだろうか。どこか片隅でそんな事を考えながら、その言葉に甘えていいのだと解釈して俺はセンリの小さな体を持ち上げた。


……



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