木ノ葉隠れ創設編

-第2次忍界大戦-


火の国の国境を跨ぐ前にヒルゼンとダンゾウは合流したが、やはり木ノ葉隠れに着くのは明日の昼程になりそうだったので、センリ達はその日の晩は火の国内の森の近くで一晩明かす事にした。



少し拓けた場所に火を焚き、扉間は大きな岩に、マダラは木の幹に寄りかかってその火に当たっていた。

すぐ裏手の森の中ではイズナを含め、ダンゾウとヒルゼン、それからコハルとホムラが眠りについている。


センリはマダラのすぐ側に頭を向け、すやすやといつものようにぐっすり眠っていた。見張りをする二人の元に来て話している間に、いつの間にか眠ってしまったのだ。

マダラは手拭いを敷いてやろうとセンリの頭を持ち上げたが、センリは全く起きる素振りを見せない。それもいつもの事だったので、マダラはふっと笑った。

マダラと扉間は何も言わず、しばらく薪が爆ぜるパチパチという音を聞いていた。

二人とも疲れてはいたが、何となく眠る気にはならなかった。扉間の事をあまり好きではないマダラだったが、その空間は思った程悪いものではなかった。

数十年前なら全力で拒否しただろうが、今となってはその憎しみも過去のものだ。

イズナを殺された時の自分に言っても信じて貰えないだろうなどと考えて、マダラは一人不思議な気分になっていた。

センリを見下ろすと、白銀の髪が炎に照らされオレンジ色に光っていた。



「……センリの入眠の速さは、羨ましいくらいだな」


少しばかりマダラの肩に頭を預けたと思ったら次の瞬間には眠っていたセンリを思い出して、扉間が静かに言った。



「こいつはいつもこうだ。眠るまでも異常な早さだが、眠ってしまえば隕石が堕ちようと夢の中だ」


センリがちょっとやそっとでは起きない事を知っているマダラは、扉間ほど声量を下げなかった。それが手に取るように想像出来て、扉間は口角を少し上げた。



「………眠らんのか」


何やら考え込んでいるような表情の扉間を見て、マダラが呟いた。扉間とイズナは自分が到着するより前から戦地で戦っていたのを知っていたので、マダラなりに気を遣ったのだ。



「いや……少し―――考えていた」


扉間は燃える炎を見つめていた。マダラはそんな扉間を横目で見る。



「昼間の事か」


マダラの問いかけに、扉間は答えず、代わりに木の枝をいくつか炎の中へと放り投げた。炎がパチッと爆ぜて、いくらか大きくなり、揺れた。


「“私的な感情を持ち込まない”…と言う割には、随分気にしているようだな」


マダラの声は静かだったが、少し嫌味が含まれていた。だが扉間はふっと口元を緩めただけだった。



「オレとて感情が無いわけではない…。目の前で復讐の怨恨に呑み込まれそうになっている者がいるとなれば、多少は気になるものよ」


その口調が随分と柔らかな事に気付き、マダラは少し面食らった。


「……昔はもっと非情な奴だと思っていたが」


扉間は炎を見つめたまま、マダラの言葉の真意を考えた。恐らくイズナを一度死に追いやった事を思っているのだろうと予想していた。 だが扉間はその事について言及はしなかった。



「非情に徹する事で、守られる命もある。オレ達が幼い頃に続いていた戦も、感情を抑え、余計な戦いを避けていく事が出来れば、ああ長くは続かなかったはずだ」


マダラは、扉間が本心に近い事を語るのをあまり見た事がなかったため、少し驚いていた。


「死んだオレの弟達も…殺された親兄弟の無念を晴らす事に必死だったが為に無茶をして結局、死んだ」


マダラは遠い昔、まだ柱間と会ったばかりだった頃の話を思い出した。確か柱間と扉間の下にも二人弟がいたはずだ。そしてその二人は幼くしてうちは一族に殺された。


「…あの時代はどの忍一族もそうだった」

「その通りだ。子どもの頃にはよく、戦って死ぬのが忍だと教えられたものだ」


扉間の声はどこか哀しげでもあり、昔を思い出して懐かしんでいるようでもあった。



「父親は随分手厳しかった、と……柱間が言っていた」


「あの時代の大人なら珍しい事ではない。だが…確かに堅物で融通の利かない男だった。兄者は弟が死んだ時に父に刃向かって、何度も殴られていたものよ」



柱間は昔から相変わらずの性格だが、父親の思っていたよりも粗暴な振る舞いに、マダラは少し意外そうに眉を上げた。


「お前達の父親は違うのか?」

マダラの表情に気付き、扉間が聞き返した。


「さすがに…殴られた事はない」

扉間はむしろそれに驚いたような顔をして、また表情を戻した。


「それは少し…意外だ」

「センリがいたからな。それで随分影響されたのだろう」


意外だ、とは言ったものの、扉間はそれを聞いて確かにそうだとも思っていた。



「うちはの者達の間で、写輪眼の開眼方法が変化しているのも、センリの影響か」


扉間は、カガミの年代くらいのうちはの忍の、写輪眼に対する感覚の事を察知していた。
マダラはふと扉間を見た後、自身のすぐ側にあるセンリの頭をそっと撫でた。


「お前は……随分とうちはについて詳しいようだ」

「お前達ほど力の強い者達を相手取るならば、その力について精査するのは至極当然の事だ」


マダラは少々呆れた口調だったが、扉間はきっぱりと言い切った。気に食わなかったのは事実だが、あまりに潔いのでマダラは乾いた笑いを零した。

思えばこうして扉間と二人きりで話す事自体初めてだったが、考えていたよりも抵抗がない事に、マダラは自分自身少し驚いていた。もしかすると、側にセンリの存在を感じているので、そのせいもあるのかもしれない。


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