木ノ葉隠れ創設編

-第2次忍界大戦-


「………うちはと千手がようやく協定を組んで、里を作り始めた時だ」



マダラはセンリの滑らかな髪をそっと梳かしながら話し始めた。


「写輪眼の開眼方法について、イズナが話し出してな……イズナが幼い頃、写輪眼を開眼せずどうしたものかと悩んでいた時……センリがその相談におかしな回答をした、と」

「おかしな回答?」


扉間が疑問げに聞き返した。マダラは三十年ほど前のその時の会話を、今でも鮮明に覚えていた。



「………写輪眼がどうやって開眼するか、知っているか?」


マダラの言葉に扉間は少し考えたが、すぐに答えを持ち出した。


「もちろんだ。何度も見てきているからな……――大きな愛の喪失や、自分自身の失意にもがき苦しむ時…脳内に特殊なチャクラが吹き出し、視神経に反応して脳に変化が現れるから、だろう」

「お前……本当によくうちはを調べ上げているな」


嘲笑とも呆れともつかない息を吐き、マダラが言った。それにも扉間はあまり表情を変えなかった。さすが常にイズナの嫌味を受け流して来ているだけはある。


「だが……確かにそうだ。そして俺達が一族から伝えられてきたのも、それと同じ事だ」

「しかしセンリはそれを否定した訳か」

「そうだ。こいつは―――うちはの人間が写輪眼を開眼する時……それは、“本当に大切なものに気付いた時”だと言ってのけた」

「……!」


扉間は僅かに眉を上げた。しかし、それは確かにおかしな言葉ではあったが、少し考えるとそれがむしろセンリの口から出た言葉として妥当なもののように思えるのは、不思議な感覚だった。



「成程……センリらしい考えだ」

「まあ、俺達も阿呆みたいな考えだと言ったが……こいつはそれでもそう信じて疑わなかった。“それに気付き、そしてその大切なものを守る為の力こそが写輪眼の瞳力だ”、“そして強い力は何かを守る為の力だ”、とな」



マダラの目が優しげに細められた事に、扉間は気付いた。マダラにそんな表情をさせる事が出来る唯一の存在はこの状況もつゆ知らず、随分深く眠っているようで、それを思うと可笑しさも感じたが、それと同じくして、扉間の胸の中には確かにあたたかな感覚が生まれていた。


「突飛な考えだが……あながち間違いでもないだろうな」

扉間が静かに言った。


「……?」

「里が出来てからうちはの瞳力は、確かに里を守る為の強力な武器となっている。里の者達がうちはを慕うのも、お前達一族が心から里を思い守ろうとするのを、知っているからだ」



マダラは静かに話す扉間をじっと見た。そして、かつて憎んだ仇の目がこんなにも穏やかな光を放っている事に、初めて気がついた。それと同時に自分達が嫌に褒められている気がして、それがマダラには少々気に入らなかった。



「フン………分かった様なことを言いやがる」

「本当の事を言っているだけだ」


やはり扉間とは気が合わない。
そうマダラは感じて、炎の中に木の枝をそうっと放り込んだ。相変わらずセンリは目を覚ます気配がなかった。



「しかし………私的な感情を持ち込まないのがお前の方針なら、センリのような奴の行動こそ正に論外だろう」


マダラはふと思って話を変える。肯定されると思っていたが、扉間はなぜか少し満足そうだった。扉間の主観を軸に考えれば、特に昼間のセンリの行動などその方針にはそぐわない。



「確かに合理的ではない……が、理想的ではある」


そう言う扉間の口調はとても柔らかい。戦場での姿は幻覚だったのかと思う程だ。



「凡その人間は感情を律していかねばならんが……センリにとっては、むしろその逆の方が良いのだろう。他の者では出来ない事でも、センリが実行する事によって物事が良い方向に導かれる。お前だってそう思っておるだろう」


何となく、扉間の言いたい事がマダラにも分かっていた。他の誰とも違うセンリのそういう部分を、愛おしいと思っているからだ。



「今日の出来事もそうだ…あそこで無視する事も、力ずくで場を収めることもできたはずだが、センリは一番困難なやり方を選んだ。そして見事にその方法を成功させ、あの男の精神までもどん底から引っ張り上げてみせた」

「そういう奴だ、こいつは」


マダラは包帯の巻かれたセンリの手を見下ろした。あの男の心を救った代わりに与えられた代償だ。

扉間も、眠り続けるセンリを見つめた。センリの変わらない心は、とても眩しかった。



「こいつは昔から他者を思いやり過ぎる所があるからな…。無関係の人間を救ってやるのは良いが、もう少し自分の体を大切にしてほしいものだ」

「………」

「……なんだ」

「いや…やはりお前達うちはは、愛情深い一族だ、と思ってな」


慈しみを込めたマダラの眼差しを見て扉間がふと気付いたように言った。そしてマダラの後ろ側の森に視線を移す。かなり疲れた様子だった側近は、きっとぐっすり眠っている事だろう。



「イズナは……写輪眼がなくとも、あれ程までに里を守ろうと働いている。何よりも大事な兄と姉が望んだ里の為に…」

「センリがイズナをお前の側近にした時は、正直手荒過ぎると思ったがな」

「しかしその行動もまた一つの正解を導いただろう」


穏やかに話す扉間を見て、マダラは今までとは少し違った感情を扉間に抱いていた。


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