- ナノ -


木ノ葉隠れ創設編

-第2次忍界大戦-


センリが管理している鳥の中でも最速を誇るシロハヤブサから連絡を受け取ったセンリの本体は、火の国沿岸部の安全を確認した後、谷隠れに向かっていた。


『(扉間くんとイズナ…それからマダラも行ったなら大丈夫だと思うけど…)』


潮風が香らなくなるくらい内地の深い森を走りながら、センリはふと考えた。行く必要はないように思えるが、まだ戦争も始まったばかりなので各国の勢いはそれぞれ獅子奮迅のそれだ。

そこを畳みかけて一気に蹴散らそうというのが扉間のやり方なので、手練れの忍を一箇所に呼んだのだろう。


『(場所は確か…あの背の高い木が多い森、か……あそこには山の中にいくつか村があったはずだから…やっぱり早く向かった方がいいかな…)』



川の国は、その名の通り大小様々な川が流れ込み、森の多い国だった。風の国とは隣合っているが、それ程気候や環境的にも悪くないので、忍以外の住民も多く住んでいた。それ故にその場所での戦闘となると心配にもなる。


センリは通常の移動から光速での移動に切り替え、時々感知をしながら戦場までを急いだ。



――――――――――

四方を深い木々に囲まれた森の中は、昼下がりだというのに日の光が遮られ薄暗く、まるで別の世界にいるようだった。


扉間とイズナとマダラ、それからヒルゼンの小隊達は砂隠れとの戦闘を制し、敵の一人を穢土転生して増援が何処にいるのか聞き出した後だった。
二代目風影がいた為に少々時間はかかったが、それでも殆どを戦闘不能にし、散らす事が出来ていた。

ここから少し離れた山の一角、そこに三十名余りが留まっているようで、扉間はそこに穢土転生を向かわせた。敵陣地にたどり着けば術が作動し、敵を殲滅させられるはずだ。


「これでこの辺りも暫くは静穏に戻るだろう」


扉間は飛雷神のクナイを近くの木から引き抜きながら言った。ファーの所々に木くずがついている。


「ホント、恐ろしい術考えるよ」


イズナは額当てを結び直しながら不快感を露わにして言った。戦闘で布が切れてしまい、結びにくかった。



「それには同感だが…」

「里を守るには、非情に徹する他ない。戦争を早く終わらせる為にもな」


マダラも腕組みしながら眉を寄せていたが、イズナ程扉間には苦言を呈さなかった。

イズナとしても扉間の言う事は一里ある事は確かだったが、やはりその血も涙もない方法に頷く事は出来なかった。

素直に頷くのは嫌なイズナは、皮肉たっぷりの視線で扉間を見た。



「姉さんが見たら絶対悲しむな」

「…だろうな」


イズナはいつもの軽い嫌味のつもりだったが、ふ、と扉間の視線が落ち、僅かに影を作った。扉間の珍しい僅かな変化に気付いたイズナは眉をしかめた。

だが次の瞬間にはいつも通りの扉間の表情へと戻っていた。



「しかし、戦場に私的な感情を持ち込むべきではない。戦争には里の民の命がかかっているのだから」


扉間の言葉に、イズナは言い返す事はなかった。側近として火影がどのような感情でいるのかは、よく分かっているつもりだったからだ。



「それはそうさ。さて―――戦いには勝ったんだから、さっさと里に戻った方がいい。ここにいて爆破に巻き込まれたらそれこそ扉間を私的な怨念で恨む事になるだろうから」


マダラは随分と明け透けな態度を見せるようになった弟を見て、少し苦笑を零した。
イズナが言うと扉間は頷き、ヒルゼンらの様子を伺った。前々から戦っていた為に扉間達より疲弊していたが、何とか体力は持ちそうだった。


「行けるか?」

「もちろんです」
「はい」


ヒルゼンとダンゾウが同時に返事を返し、コハルとホムラは頷いた。

ここから木ノ葉隠れまでは日を跨がないと着かない為、七人は早々にその場を後にした。




しかし、七人が走り出してから数分と経たないうちに突然目の前に白い光が躍り出た。センリだ。



「センリ姉さん!」


地面を蹴りながらイズナが少し驚いたように言う。センリは七人に併走するように向きを変えた。


「一足遅かったな。たった今ケリがついたところだ」

『そうだったの』


甲冑は汚れていたがマダラの無事を確認して、センリは少し安堵して頷いた。だが周辺の気配から気にかかる事があり、扉間の横についた。


『穢土転生体が近くにいる?』

センリが感知をして気付いたのかと扉間は思い、「ああ」と返事をした。


「増援がこの二つ先の山のふもと近くで待機しているらしいのでそこに向かわせた」


術の手順を分かっていたセンリは一瞬頷きを見せたが、ハッとして扉間を見た。


『二つ先?木喰山?』

「そうだ」


僧侶達が火の入った食物をとらず、木の実や果実のみを食して修行を行う事で有名な山なのでそう呼ばれていたが、扉間はセンリの表情にはただならぬ気配を感じていた。



「どうかしたのか?」


反対側からセンリの異変に気付いたマダラが問いかけるが、センリの表情はますます曇っていた。



『あの山のふもとには村があったはず…――私、止めてくる』

「!」
「何だと?」


センリの嫌に真剣な眼差しはそういう事だったのかと理解するのと同時に扉間もマダラも驚愕した。



「ダメだ姉さん!あれには五乗起爆札が―――――」


話を聞いていたイズナも焦りながら言った。ダンゾウさえも驚きを隠せないようだった。


『大丈夫、すぐに戻ってくるからこのまま木ノ葉に向かってて!』

「待てセンリ!」


マダラの制止も聞かずに、次の瞬間にはセンリの姿は消え去っていた。


「あの馬鹿――――」

「二代目様、どうなさるのです?」


マダラが苦々しく呟き、移動速度を上げた。


「センリなら問題ないだろうが…少し進路を変更する」

木々の隙間から空を見上げながら、ヒルゼンの問いかけに扉間が素早く答えた。


「急ぐぞ、扉間」


イズナもセンリの実力を知っている為に取り乱す事はなかったが、切羽詰まったような声に扉間は頷いた。
私的な心配事は押し込むように冷静を保ったままだったが、それでも心の奥底にある懸念を完全に拭い去る事は出来なかった。
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