- ナノ -


木ノ葉隠れ創設編

-固まりゆく里の地盤とうちはの石碑-


『マダラ』


それを問いかける前に、突然センリに呼ばれ、マダラは反応が遅れた。


『これは、うちはの人たちに見せない方がいい』


いつになく真剣な様子のセンリに、マダラは首を横に振ることは出来なかった。


「お前が言っている事が本当なら…この石碑はうちはを壊滅に追い込むことになりかねない。そうした方がいいだろうな」


センリはマダラがすんなりと自分の言っていることを信用してくれた事に少し嬉しさを感じていた。あまり他人の言う事は聞かず、戦いにおいても個人主義なところがあるマダラだったが、センリの言う事については無条件に信頼していた。


「だが、書き換えられているというのなら一体誰が何の為に?相反する二つが作用し合い森羅万象を得る…この回りくどい書き方、その二つの力を手に入れろとほのめかしているようにも聞こえる。先程言ったもう一つの考えのように…そう考えてしまうのを狙っているかのようだ。むしろ平和ではなく、戦いを助長しているようにも思える」


マダラの考察はセンリと同じだった。これを書き換えたものは何かを狙っているかのように、そしてうちは一族を悪に陥れるかのような思想さえ感じる。


『(インドラでないとするとするならば、他に思い当たるのはカグヤだけど……カグヤは後のうちは一族の事やインドラの事は知らないはず……それならカグヤ以外……。無限月読を知っているという事は、私たちが生きていたあの時代にいた誰かの仕業……そしてカグヤの事を知っていた人物……)』


再び考え込んでいるセンリをマダラは見ていた。


『私の知っている人の中に、こんな事をするような人はいない。これを書き換えた人物がいたとしてもきっとずっと前……もう今はいないはずだから』


センリは石碑に手を乗せた。すると石碑上の文字がその手に吸収されるようにするすると吸い込まれて無くなっていく。文字は消え、石碑はただの石になった。


『これでよし』


全ての文字が消えた事を確認するとセンリは手を退かした。


『マダラが話したい事ってこの事だった?』


センリの問いにマダラが頷いた。


「ああ。予想外の事が分かったが………お前がうちはの光の巫女だなどというのも信憑性が増したな。うちはの為に石碑を遺していたなど…」



センリがうちはのことを昔から想っていたことだけはマダラに分かった。センリは薄く微笑んだが、どうにもマダラにはそれが悲しげに見えた。


『でも……“光の巫女”の事を記した人と、これを書き換えた人が同一人物なのかどうかは分からないね』

「そうだな…まあどちらもお前の事を知っていた人物だろうが……どちらかというと光の巫女の方は、お前がうちはを良い方向に導く為に書き記したように思える。しかしどうやらこっちは違うようだな。何と書いてあったんだ?」


センリの表情がまた少し険しくなり、言うか言うまいか迷うような仕草をした。


『うーん……説明するのが難しいんだけど…この世界を壊す為のやり方みたいなのが書いてあった』


するとマダラの眉が寄せられ、シワを刻んだ。


「世界を壊す?そんな術があるってのか?」

『うん…。術、とは言えないかもしれないな……―――信じられないかもしれないけど、そういう事が出来るんだ。それで、それを成し遂げる方法が書いてあった』

「うちは一族の人間なら、それが出来ると?」

『んん……でも、かなり難しいけどね』


マダラは眉をしかめたままセンリを見つめた。そんな物を残す意味が分からなかったが、石碑を書き換えた人間が禄でもない事だけは理解できた。


『まるで、世界を平和にする方法がそれだっていう感じで書いてある。だからこれを読んだ人は、この方法こそが世界を救うんだって勘違いすると思う』

「むしろそれを狙っているんじゃないのか?」


マダラの言葉にセンリは小さく頷く。


「……お前が以前過去の世で生きていた時、そういう事を考えるような奴がいたのか?」


センリは一度薄暗い床へと視線を落とした。


『………いた』

「……」


センリの横顔があまりにも儚げに見えて、マダラはそれ以上何かを言うのを思いとどまってしまった。

センリはカグヤの事を思い出していた。無限月読の事は知っているとはいえ、カグヤに限ってはむしろ知らない事の方が多い。それにこの先の事はカルマは言う事を許さないだろう。


『詳細には言えない……私にも分からない事が多いから……。ただ、マダラを信用していないから言わない訳じゃないよ。いつかは、話したいと思ってる。知ってほしいから……それだけは信じて』


センリは視線をマダラに戻し、真っ直ぐに見つめた。好きだからこそ、それだけは信じてほしかった。


「当たり前だろうが。お前の思っている事くらい分かる。俺の事を心底信頼している事もな。お前がいつか話したいと思っているなら、俺はいくらでも待つさ」

『……ありがとう』


マダラがきっぱり言い切ると、センリは安心して小さく微笑んだ。今回はマダラの自信気な言葉がより嬉しかった。


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