木ノ葉隠れ創設編
-固まりゆく里の地盤とうちはの石碑-
『マダラ、これ………書きかえられてる』
突然の言葉に今度はマダラが眉を寄せ「どういう事だ」とセンリに問い掛けた。センリは石碑を見たままその文字に手を伸ばし、そっと撫でる。
『この石碑は昔、私達がつくったものなの』
思いがけない発言にマダラは些か呆気に取られた。
『覚えてる。忘れるはず無い。でも……私達が記した文章じゃなくなってる』
座りこんでいるセンリが、訳が分からないという顔で棒のように突っ立っているマダラを見上げる。
「それは、間違いないのか?」
センリが遥か昔にこの地で生きていた事は知っている。センリについてはこれまでも信じ難い事が多々あったが、それは全て事実だった。しかしこうも突然、今まであった事をひっくり返すくらいの衝撃の言葉を言われるとさすがのマダラも動揺していた。
『間違いない』
凛としたセンリの声と真っ直ぐな瞳は間違いなくそれが真実だということを物語っているようだった。嘘ではない、とマダラはすぐに分かった。
「なら、ここに書かれている事は……お前がつくった後、他の誰かが書き換えたものだという事か?しかし、お前は一体何の為にこんなものを?」
センリは考え込むように視線を下げた。
これはハゴロモが亡くなる少し前に、いつかインドラ達に気付いて欲しくて、写輪眼でないと解読できないようにしてつくったものだった。しかしセンリ達が遺したものとは明らかに違う。
『平和を望むのなら、力だけを信じてはいけない。周りに目を向け他人を信じ、決して一人で生きていかないように…負の力に呑まれないように…そういう事を記したはずだった。それなのに、一体誰が…』
センリは一度言葉を置いて、少し考えた。記憶を辿ってみたが、これを書き換えるような人物など思い浮かばなかった。
『(もし可能性があるとすればインドラだけど……でも、インドラだったらこんな事をしなくても自分の一族…うちは一族に伝えていけばいい事だし……―――)』
石碑の前にある仄かな炎がゆらりと揺れてセンリの体に影をつくる。
「…千年前にすでに写輪眼はあったのか?」
少し動揺の落ち着いたマダラがセンリに問いかける。マダラは、センリが以前生きていた時代がそれくらい前だということだけは知っていた。
センリはマダラの声にハッとして石碑から目を離した。
どこまで話すべきか少々考えた後、センリはまた口を開いた。
『うん。写輪眼の力はマダラもよく知ってると思うけど…すごく強力なものだった。千年前…その写輪眼を開眼した人がね、「平和に必要なのは力のみだ」って言って突然姿を消しちゃったの。世界は力で制するべきだって言って…消えちゃったんだ。
だからその人が、どこかで力を第一にする一派をつくったって聞いて…それで、その為にこの石碑を遺したの。その力に、自分自身が呑み込まれないように……なるべく、苦しい思いをする事がないように…そう思ってつくった石碑なの』
マダラはセンリの言葉の一つ一つを頭の中で反芻しながら静かに聞いていた。センリが過去の事を話すのはカルマが止めていると知っているマダラはセンリの話を聞き逃さぬよう耳を傾けた。
「という事は……この石碑にはそれとは違う……十中八九、真逆の事が書かれてるって事か?俺には全てを解読する事はできないが…お前には見えてるんだろう?」
マダラの鋭い考えにセンリは少し目をぱちくりさせた後、ゆっくり頷いた。
『そう。本当に真逆の事…』
ここまでの会話でのセンリの様子を見てマダラはセンリの言っている事が冗談などではないことは分かっていた。
『(写輪眼で、“万華鏡写輪眼があれば九尾を操る事ができる”……そして万華鏡写輪眼でさっきの内容………輪廻眼で……“輪廻の力を持つ者が月に近づきしとき、無限の夢を叶えるための月に移せし眼が開く”……最悪だ。これじゃ読んだ人は無限月読こそこの世界を救うと考えてしまう………それに、カグヤと私たちがやってきた物語まで記されてる……一体どういう事なの?)』
石碑の前で黙り込んでしまったセンリをマダラは不思議そうに見た。センリの横顔はこれまでにないくらい真剣で、マダラの知らない人間のような気がした。
「力を第一に、な……。それで、そいつがうちは一族の創始者ってわけか」
マダラの問いかけにセンリは数秒遅れて再び頷いた。
『マダラは鋭いね。うん……たぶんそうだと思う。だからこの時代でうちは一族の存在を知って少し驚いたんだ。でもこの石碑を置いた理由も、力だけを追いかけてほしくなかったっていう私たちの勝手な思いなんだけどね…』
私たち。
マダラはセンリの言葉に引っ掛かりを覚えた。
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