木ノ葉隠れ創設編
-固まりゆく里の地盤とうちはの石碑-
二月半ばのある寒い日の夕暮れ時。
「少し話したいことがある」
センリはそう言うマダラに連れられて、里からは少し離れた、ある神社に来ていた。森に囲まれたところに赤い、大きな鳥居が立ち上がり、その奥に神社と思しき少し古臭い建物がある。神社らしく賽銭箱も置いてあった。
「こっちだ」
マダラは鳥居を過ぎ、その建物の扉を開けて中に入って行った。センリは不思議そうにその後を着いて行く。
中に入るとそこは普通の畳が張られた和室だった。にも関わらずマダラは忍靴を脱ぐこと無くずかずかと足を踏み出す。
『えっ、靴脱がないの?』
センリは咄嗟に入口でいそいそと靴を脱ぎ、それを手に持った。日が暮れてきていたので中は少し暗い。
「別に大丈夫だ。それに靴は履いておいた方がいい」
センリが訳が分からずにマダラの後ろ姿を見ていると、マダラは突然立ち止まった。センリがどうしたのかとマダラの先を覗きこもうとした時、突然マダラの足元に階段が現れた。それが畳の下から出現したものだと理解するのに少々時間がかかった。
「こっちだ」
地下へと続く、暗い階段。マダラはその階段へと足を踏み入れた。
『ま、待って』
センリは慌ててマダラに声をかけると、数段進んだところでマダラが振り返り、センリに手を差し出した。
「足下、気を付けろ」
センリはその手をとって、マダラに続いて恐る恐る階段を下った。何段か降りるとすぐに地下の部屋は現れた。
まず目に入ったのは仄かな明かり。そしてそれに照らされた木目の床。そしてその壁の真ん中の窪みに、何かの文字が書かれた石碑。明かりはその前に置かれた火の光だった。石碑の後ろにはうちはの家紋が大きく描かれている。
『ここは…』
センリが初めて来た場所だった。
部屋の床に足をつけてマダラの手を離し、センリが不思議そうに辺りを見回す。マダラは火の明かりの方へ近付いた。冷たい空気が頬を摩る。
「これはうちはに代々伝わる石碑だ」
そう言ってマダラは石碑の上に手を乗せた。センリはその石碑に近付き、暗がりに目を凝らす。
「解読するには瞳力が必要な少し特別な読み物でな………センリ、どうした?」
マダラはセンリが唖然と口を開き石碑を凝視するので不思議に思って問い掛ける。
センリはこの石碑を知っていた。
『(これ…!ハゴロモと一緒につくった石碑だ……忘れるはず無い。ハゴロモが、インドラに気付いて欲しくてつくった石碑…間違いない……けど……)』
センリは石碑を見て困惑したように眉を寄せた。そしてしばらく石碑を眺めた後、マダラの顔を見上げる。
『マダラは…これが読めるの?』
センリの声は静かだったがどこか緊張感のようなものが感じられた。
「いや、全ては読めない。今俺が読めるところまで……“一つの神が安定を求め陰と陽に分極した 。相反する二つは作用しあい森羅万象を得る”そう書いてある」
マダラは石碑を眺めながら言うのをセンリは黙って聞いていた。石碑を読む時、マダラの瞳が万華鏡写輪眼になるのが見えた。
「これは全てに当てはまる道理だ。相反する二つの力が協力する事で本当の幸せがある。そう…まさに今現在の状況だ。今まで敵対していたうちはと千手が手を取り合い、里をつくった」
文章の意味はセンリにでも分かった。マダラはもう一度石碑からセンリへと視線を移す。
「俺は今まで意味をそう理解して来た。しかし…考えようによっては別の捉え方もできる」
センリの頭の中で一度石碑の文章が交差するとすぐにマダラの考えている事が分かった。
『……相反する二つの力を、どちらも手に入れれば幸せになれる、ってこと…?』
マダラはゆっくり頷いた。カグヤやインドラが考えそうな思想だった。
『これ、マダラ以外の誰かは知ってるの?』
「俺の父は知っていた。恐らく、代々うちは一族の長を務めた者だけが知っているのだとは思うが……いつからあるのかは分からないな」
センリは少し難しそうな顔をしたまま石碑に近寄り、その前にしゃがみ込んだ。
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