- ナノ -


木ノ葉隠れ創設編

-帰還した不死鳥と、体の謎-


「…知っている」


今までで一番小さな声だった。


「センリはそもそもこの世界の人間ではない。こことは違う場所で生き、そして二十五という若さで命が消え…その後、我がこの地に連れて来た」


また話が跳躍した。マダラはこれまでに無いくらい不可解そうな面持ちで話を聞いた。


「こことは違う世界から連れて来た…だと?そんな事が有り得るのか?」

突然そんな話をされれば誰でも同じ反応をする。カルマはマダラの心情に少々同調しながらも、それが、本当の事だと強く伝えた。


「有り得る。前世、とでも言うべきか……こちらの世界にセンリを連れてきてから、我はその時代をセンリと共に八十年程過ごした。だがその時に何かの呪術をかけられセンリは時をさ迷い……そして次に目を覚ました時には千年の時が経っていた。そう…御主がまだ幼かった頃、初めてセンリと出会った時だ」


確かに自分は元々この世界の人間では無いと、その話はセンリから聞いた事はある。しかし、いくらセンリであろうと少しは何か勘違いの様な事もあるだろうと思っていた。だがそれも全て本当の話だと信じざるを得なくなってきたかもしれない。


「我は…センリが前の世界で生活していた時……その時からあの娘を知っていた。近くでセンリを見ていた」


マダラは微かに目を見開く。


「センリの抜けた記憶についてもお前は知っているというのか?」


センリは本当の自分の親の名前も顔も、自分が誰とどのように過ごしていたのかという記憶が無い。よもやその時カルマが一緒にいたなど思いもしなかった。マダラにしては少々切羽詰まった様子なのを見てカルマは一瞬口を閉じる。


「………知っている」


マダラはまさか、という顔でカルマを見た。


「しかし、その当時に何があったのかを御主に言うつもりはまだ無い」


マダラはピクリと片方の眉を動かした。


「まだ…という事はいつかは教える気があるという事か?」


やはり耳ざとい。センリのように鈍すぎるのもどうかと思っていたが、鋭すぎるのも考えものかもしれないとカルマは頭のどこかで思った。


「正直なところ、その時の記憶をセンリには思い出して欲しくないのだ。今、この世界での時間を…この世界でどう生きるのかを優先して、その時間を大切にしてほしい」

「思い出させたくない程凄惨な記憶という事か?」


マダラの問い掛けに少し迷ったが、カルマは頷いた。


「御主の事をまだ信用した訳では無い。しかしセンリは御主の事を心から愛しておる……御主がセンリの事を支えてくれるのなら、その存在を守ってくれるというなら…その役目を果たして欲しい。時が来れば、センリの過去について御主に話す事があるかもしれぬ」

「…」


カルマが言いたい事の真意がなかなか分からずにマダラは静かに睨むような視線を向けた。


「…センリとうちは一族との間には何か関係があるのか」


うちはの石碑の事だとカルマはすぐに理解した。マダラはセンリがあの石碑を作った事を本人の口から聞いている。しかしマダラはうちは一族の始祖であるインドラについては何も知らない。もちろんインドラとセンリの関係も。

考えた末やはりカルマは首を振った。

                   
「うちは一族の始祖である人間とセンリは知り合いだった。……それだけだ」


それ以上話そうとしないカルマを見てマダラは軽くため息を吐いた。


「俺を……俺達人間を信用出来ないからセンリにも口止めをしてあるという事か」


センリはこの手の事を聞くといつも申し訳なさそうな表情をして詳しく話そうとしない。やはりそれはカルマが口止めをしているからだとマダラは悟った。


「……今は、だが」


マダラを信用出来ないのは慥かなカルマの気持ちだった。

この男にはセンリの手を振り解き、一人で闇に走っていったあのインドラの魂の片鱗がある。表には出さないがセンリがその事を気に病んでいることも知っている。センリがマダラを愛し、そしてマダラもそうだったとしても手放しで信用は出来なかった。



「センリは、いつかは必ず話すと言った。俺はそのセンリの選択を信じている」


だがセンリがマダラを何よりも大切に思っている事も事実。それならばセンリの事を一番側で守っていて欲しい。

自分の考えが矛盾している事は分かっていたが、カルマにはそれ以上の言葉が見付からなかった。


「お前が俺の事を信用するかしないかは勝手だ。ただ、俺の気持ちは揺らがない。この先も、絶対に変わる事は無い」


力強い視線だった。マダラは自分より遥かに力の無い人間だというに、その眼差しに威厳すら感じた。

気圧されるくらい強い思いを放つマダラをカルマは黙って見ていた。もう少し、この男を信用できるか様子を見よう、とカルマが結論を出した時ふと人間に化けた体に違和感を感じた。


「……何だ?」


突然カルマが自分の手を観察し始めるので疑問に思ったマダラが問い掛ける。


「……また縛りが強くなりそうだな」


何の縛りかは聞かずともマダラには分かった。


「センリの体の封印術か」


体の中から力を吸い取られる様な奇妙な感覚。それはカルマとセンリの間にある封印術の縛りが強く作動した時の兆候だ。またセンリの中に入らなくてはならない。


「その呪いを解く術はないのか?」

眉をひそめたままマダラが問いかけた。


「我もその事については様々な仮想をしているが……正直なところ、危な過ぎる橋を渡るような、危険性の方が高い方法しか思いついていない」

カルマは手を空中に上げて部屋を包んでいた結界を解く。

「我も迷ってはおるが…試してみるか?」

カルマが問いかけた。マダラは数秒考え込むような仕草を見せたが、首を横に振った。


「今はもう戦国の世ではない。完全に安全とは言い難いが、里にいる間はセンリを見守る人間は多くいる。それになるべく俺が傍にいるようにすれば何の問題もないだろう。少しでも危険が伴う事をあいつにはしたくない」

カルマは僅かに目を開き、そして薄く微笑んだ。


「分かった。まあ……まだ聞きたい事は多少あるかもしれぬが……大まかな事は分かっただろう。我はまたセンリの中に戻る。センリの事も頼むが…里の事も忘れるな。それから、友の事もな」


そんな事は言われなくても分かっているというマダラの表情に僅かに笑を浮かべると、突如カルマの体から光が溢れ驚く間もなくその姿が消えた。センリの中に戻ったのだ。

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