- ナノ -


木ノ葉隠れ創設編

-固まりゆく里の地盤とうちはの石碑-


『カルマ、』


責めるような口ぶりにセンリも困った様にカルマを諭す。いつものカルマらしくない。マダラはピクリと眉を顰めた。


「随分と人間を目の敵にしているようだな」


こういう時でも絶対に気圧されないのがマダラだ。自分に怖気付くこともなくむしろ威嚇するようにもとれるその瞳を見てカルマは何故かハゴロモを思い出した。
柱間は隣に立つマダラにやめろというような視線を送るがマダラはじっとカルマを見つめたままだった。


「人間が嫌いな訳では無い。長く続いた戦争を終結に導いた御主達の行動は賞賛に値するものでもある。しかし……長きに渡って人間達が尾獣を手酷く扱ってきたのも事実だ。我は忠告し続けた。だがそれも人間達は聞き入れなかった。我にとって尾獣は子どものようなものだ。我が子を酷い目に遭わせた者に怒りを覚えない親がいるか?」


センリはこれ程までに怒っているようなカルマの姿を初めて見た。声はいつものように緩やかに、抑えてはいるようだが明らかに殺気が漏れ出ている。現に忍界で最強といわれている柱間でさえ、言葉を返す事が出来ずにいた。

ここでもしカルマに攻撃等されたら勝ち目は無い。畏怖を抱きながらも頭のどこかでそう考えて、柱間はゴクリと唾を飲んだ。


「しかしまあ……尾獣達が近付く人間を無闇に惨殺してきた事も事実だ。人は圧倒的な力を恐れる。自身に身の危険を感じその為の防衛だとすれば納得できぬ事ではない。頑なに人間を信用出来ない尾獣達にも多少なりとも非はあるのかもしれぬがな……まあ、今我がここで御主達に言っても仕方ない事だ」


警戒していたマダラだったがカルマの殺気はすぐに収まった。


『(カルマ…)』


カルマの尾獣達を思う気持ちが分からないセンリではない。しかしだからといって人間たちの世界を滅茶苦茶にしてまでそれを強制するカルマではない事も分かっていた。自分が何もできない事にもどかしさを感じた。


「なるほど……。確かに他の尾獣達とは違うようだな」


カルマの言葉にマダラは敬意のような視線を向けた。しかしそれは柱間も扉間も同じだった。

尾獣達は強大な力を持った兵器だという概念しか頭になかった。それを我が子だと言うカルマは本当に尾獣達の親に見えたし、物事を客観的に捉える聡明さもある。今まで尾獣の仲間だと思っていたカルマがそう語るのは何か不思議な感じもした。


「御主達がどう思うかは自由だが……。それなら話は終わりだ。今は時間が惜しいからな。
センリ、我は尾獣達の元に行ってくる。すぐには戻れぬかもしれんが、必ず様子を報告に帰って来る。幸い術の縛りはこれまでに無いくらいに弱い。我が外に出ても御主には影響しないはず。燃焼日も力は使えずとも前の様な症状も出なくなった事だ……ここは我を信用して任せてはくれぬか」


燃焼日に症状が無い事はセンリも経験済みだ。それにカルマとはもう何年も一緒にいる。拒否などしない。センリは大きく頷いた。


『分かった。気をつけてね』


柱間とセンリの承諾を貰うとカルマは、柱間の後ろにある大きな窓に近付いた。


「その窓は開かないぞ」


カルマが窓から出ようとしていると思い、柱間が声を掛ける。


「我は光だ。物体を通り抜けるなど何の造作もない」


そう言うとカルマはセンリに意味ありげな視線を向ける。二人は小さく頷き合った。


『…よろしくね』


それを聞くとカルマは目の前に硝子が存在しないかのようにその窓に向かい、そして言葉通り窓をすり抜けた。
一瞬、その姿が四人の視界から消えたようにも見えたが、次の瞬間それは里を覆う程の大きな白く輝く鳥の姿になり、瞬く間に大空へと羽ばたいて行った。カルマが羽ばたいた後にはきらきらと輝く粉雪のような光が舞っていた。美しく、そして見たことも無い幻想的なその姿には目を見張るものがあった。里の者達は何事かと頭上を見上げた事だろう。


「…本当に不死鳥だったのか」


扉間が圧巻のその姿が遠ざかるのを目で追いながら小さく呟いた。記憶にあるカルマも相当大きく美しかったが、今見ると更に凛々しく震える程の力を放っているように思えた。


「十尾はこれまで一度見た事があったが……やはり凄まじいチャクラだな。オレでも勝てる気がしなかったぞ…」


柱間はカルマの威圧感を思い出し、腕をさすった。


「しかし、本当に尾獣達を探し出してくれるのならそれに越したことは無い」


扉間が腕を組みながら言う。柱間もそれにはその通りだと頷いた。


「センリ、何とも無いか?」


マダラがセンリに近付き問い掛けるが、センリはなんとも無いと笑顔を浮かべた。


『大丈夫だよ!次何かあれば自分で分かるから』


ここ最近こんなに心配そうなマダラの顔は見なかったなと柱間はふと思っていた。センリが過去に消えていた事は知っているがやはりマダラはそれを恐れているようだった。


「しかし……お前と尾獣達はどういう関係なんだ?不死鳥の口振りだとお前も尾獣達に会っていたような感じだったが」


扉間がセンリに向き直り訪ねた。それは柱間も、そして、マダラも気になっていた事だった。

三人に見つめられ、どこまで言っていいものか悩んでいたセンリだったが、ふと思い付いたように視線を上げた。


『昔…少しの間一緒に過ごした事があるの』


カルマが飛んで行った空の方を見つめながらセンリは静かに言った。

三人はそれ以上センリに言及しなかった。人間以上に警戒心が強いあの不死鳥の事だ、センリに必要以上に過去の事を話さぬように言い聞かせているだろう事はマダラにも柱間にも何となく分かった。

しかしどちらにせよ尾獣達と繋がりのあるセンリとカルマは貴重な存在だ。これからの尾獣と忍との関わりの未来が左右されるかもしれない。今はカルマが尾獣達を探し出す事に成功して戻ってくる事を祈るばかりだ。


その日が終わってもセンリは本当に何とも無かったし、眠気も無かった。その証拠に胸元の呪印はこれまでに無いくらい薄れていた。センリも尾獣達をカルマに託し、再び里を見守る事に徹した。

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