木ノ葉隠れ創設編
-弥彦と小南と長門-
時の流れは早かった。
“自来也が本を書き終えたら”と決めてから一ヶ月後にはその時が訪れていた。
三人は忍術の呑み込みが早いのもあってか、瞬く間に上達し、二年が経つ頃には中忍レベルの実力になっていた。
―――――――――――
「(水遁・水乱破!)」
弥彦の口から大量の水が吐き出され、自来也を襲う。
「(紙手裏剣!)」
そこへ小南が投げつけた紙の手裏剣が迫る。
「(風遁・烈風掌!)」
パン!と音を立てて長門が手のひらを合わせると、鋭い風が巻き上がり、小南が放った手裏剣の速度を格段にあげた。
刃物の如く鋭さを増した紙手裏剣は見事に自来也に当たる。
「やった!」
弥彦が喜びの声をあげた瞬間、ボンッと音を立てて自来也の影分身が消えた。
『やったね、みんな!』
センリが三人に駆け寄り、パシンと手を叩き合う。
「ワシの影分身をやるまでになるとはのう…」
「どうよ先生!」
自来也の感心した態度に弥彦は自慢げに手を振った。自来也がふとセンリを見て、センリも頷く。
「これで安心して里に帰れる」
「!」
「えっ…」
突然の言葉に三人は動きを止める。自来也とセンリは微笑んで三人を見つめていた。
「これからはお前たちだけでやっていけ!」
『二年間、よく頑張ったね』
唐突な別れを理解し、、雨に混じって弥彦の目から涙が零れた。
「おっと、泣くな弥彦。弱虫だと思われるぞ」
自来也は、二年前の弥彦の台詞をそっくりそのまま返すと弥彦は唇を噛み締めてゴシゴシと目元を拭った。
「小南…お前は美人になるだろう。大きくなったらまた会おうの」
自来也は小南に語り掛けた。
『大丈夫、きっとまた、会えるよ』
センリはぎゅっと小南を優しく抱きしめた。この二年で随分と身長が伸びていた。
「この国は貧しい…この先悲しいことも多々あるだろう。だが今度はお前たちの力で変えていけ。長門……お前たちなら大丈夫だ」
自来也は一度振り向き雨が降り続ける中、背を向けて歩き出した。
『小南、青い薔薇の花言葉があるんだけど、知ってる?』
センリが小南の顔を覗き込むと、目に涙を浮かべながら首が横に振られた。センリはその涙を拭うように指の先を当てて微笑んだ。
『“不可能”と“奇跡”』
センリは小南の髪に飾られた青い薔薇の紙をそっと撫でる。
『不可能に思える事だって、奇跡を起こす事がある。信じる力は、奇跡を起こす力にもなる。きっと』
小南はフルフルと唇を震わせて、センリに抱き着いた。センリはその頭を撫でると、そっとその体を離した。
『長門も、弥彦も。とっても強くなったよ。本当によく頑張ったね』
長門も弥彦も流れ出る涙と嗚咽とで返事が出来なかった。センリは最後に二人を抱き締めて、とびきりの笑顔を見せた。
言いたい事は、この二年間で三人に伝えきっていた。センリは満足したように手を振る。
『またね』
センリは静かに言ってから、自来也の後を追って三人の前から姿を消した。
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