木ノ葉隠れ創設編
-弥彦と小南と長門-
三人を見る中で、側につかなくても三人だけで事を進められるようになってくると、自来也は小屋の中で自身の本の執筆活動を進めていた。小説を書く事が趣味でもある自来也は、筆を一進一退させながら物語を紡ぐ事に勤しむ時もあった。
つい先日まで修業中もウーンウーンと唸りながら悩んでいた自来也だったが、今日は筆の進みが好調のようだ。
三人は近くの森で本気のかくれんぼをした後夕食の調達に出かけたばかりだ。この頃は自来也とセンリが手伝わずとも三人だけで衣食住含めた生活ができるようになっていた。
『今日はずいぶん調子がいいんだね』
センリは机の上に自来也と自分の分のお茶を出しながら話しかけた。
「すみませんのォセンリ様」
つい何日か前までは原稿やら本やらが散らかっていたが、今日は片付いている。自来也も心做しか晴れやかな表情をしていた。
「実はこの間長門からヒントをもらいまして」
『長門から?』
一体どういう事なのだろうかとセンリが首を傾げるので、自来也は訳を説明してくれた。
中々アイデアが浮かばずにいた時、長門に言われた言葉でふと主人公とストーリーが思いついたようだ。
“どうすれば平和になるのか”を考えていたらしい長門は、結局その詳しい方法までは思いつかなかった。だが長門は“方法”は分からずとも、“大切な事”は自分の中で見つけられたらしい。
『……――――なるほど、「大切なのは、信じる力」か。長門、この二年間でとっても大事な事を見つけられたみたいだね』
長門の成長は、センリにとってもとても喜ばしい事だった。疑問の言葉が多かった事も、長門の中で大切な何かを探る手段の一つだったのだろう。
「ええ、あの子の輪廻眼を見た時は驚きましたが……今はそれよりも、あの子達に期待する感情の方が大きいのです。もしかしたら……本当に、この世を変える力があるのかもしれん、と」
『そうだね!出会った頃より、三人はずっとずっと強くなったよ』
「もしかすると、そろそろ潮時なのかもしれませんな」
自来也は半分嬉しそうに、そして半分悲しそうな眼差しで、手元の書きかけの本に目を向けた。だがセンリも同じ事を思っていた。
『この前インテツくんが言ってたように、木ノ葉隠れの今の戦いが終われば、この戦争も終わる。ちょうどいいかもね』
「確かにタイミングとしてはそれが良いでしょうな」
『あ、じゃあ……自来也がその本を書き終えたら、にする?』
センリが机の上に置かれた本を指差して言った。もう物語は終盤を書いているところなので、確かに丁度いいかもしれないと自来也も頷いた。
「そうしましょうか。しかし……そうなると、里に戻った時の事を考えると、少し億劫です……」
『「遅い」とは絶対言われるよね』
仁王立ちで腕組みをするマダラの姿が鮮明に脳裏に浮かび、自来也は乾いた笑いを洩らした。
「そもそもあのマダラ様が、二年もここにいることを許している事には驚きですが……特にマダラ様は、センリ様の事になると非常に心配なされますから……」
『最近は頻繁に“まだ帰らんのか”っていう内容の手紙が来るよ。里には分裂体もまだいるんだけど、マダラ曰く、あれは私ではないらしくて、不思議な所で拘ってるんだよね…』
センリは少し怪訝そうに眉を寄せ肩を竦めたが、自来也にはマダラの言わんとしている事が手に取るように分かった。
「それなら尚更、早くマダラ様に“本物”を会わせてあげなければなりませんのォ」
『ふふ、そうだね。私も早くマダラに会いたいよ』
センリの表情が愛おしそうに微笑むのを見て、自来也はふと思いついた。
「なるほど……“愛”をテーマにするのもいいかもしれませんな」
『愛?小説の事?』
顎に手を当て考えるような仕草をする自来也を見てセンリはきょとんとした。
「今書いているものは“諦めない心”を主題にしておりますが……“愛”というのは、その定義も数多にありますから、題材としてはかなり良いのかと思いまして」
『諦めない心、か。それはとても素敵な物語が出来そうだね!愛をテーマに、っていうのもすごく良さそう。男女間でも家族間でも、友だち同士でもいいもんね』
「そうですなあ……“愛を知らない男と憎しみを知らない女”の物語というのがいいかもしれません」
自来也はセンリを見て早速閃いていた。
『わあ、何だかすごく大人な感じだね!自来也は文章を書くのがとても上手だから、どんなテーマでも傑作に出来そうだ』
子どものように目をキラキラさせるセンリを見て、「二人の関係性をヒントに貰った」と言うのは、本が完成してからにしようと自来也は心の中で思った。
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