木ノ葉隠れ創設編

-三代目火影-


ヒルゼンの三代目火影としての威厳が忍達に伝わっていく中でも、センリは戦がなく穏やかな時は相変わらず里の者達に慕われていた為挨拶をしてくる者達に手を振り返しながら商店街を歩く事が多かった。


そんないつも通りの道中、センリはふと公園の中に佇む少年の後ろ姿を見掛けた。


『あれ…』


木の上を見上げているようなその後姿に見覚えがありセンリはその背中に近付いた。


『ミナト』

「センリ様…こんにちは」


少年はセンリの声に振り向き、お辞儀をして挨拶をした。波風ミナトという少年で、名だたる一族出身ではなかったがアカデミーの教師からはその実力を認められ、もう卒業しても良いのでは無いかとお墨付きをもらっている。

中性的にも見える端整な顔立ちの碧眼の少年で、黄色の髪がツンツンと逆だって風に揺れていた。

幼い頃からセンリとは度々交流があったが、最近は会っていなかった為久しぶりに感じた。



『どうしたの?』


立ち竦んでいるミナトを不思議に思ってセンリが問い掛けるとミナトは見ていた木の上を指差した。

「あそこに…」


ミナトが指を差した木の比較的高い枝の上に、木々の葉に紛れるようにして一匹の猫の姿があった。


『猫…。降りられなくなったのかな?それが気になって見ていたの?』

「はい」


ミナトは十歳にしては大人びた口調で返事をした。猫はそこから降りられなくなってニャアと鳴き声を上げていたが、ミナトはそれを観察していた。


「あの猫は、自分で降りられると思ったので」


ミナトが言うようにその猫は降りられずに怯えていると言うよりは、何とかしてそこから降りられないかと地面を向いて確認しているようだった。


『そっか。それを見守ってたんだ』


センリは訳が分かって頷き、ミナトと共にその猫をしばらく観察してみるが、飛び降りようか何度も迷っているように顔を上下するだけだった。


『助けてあげようか』


数分経っても同じようにウロウロしている猫を見てセンリが言ったが、ミナトはまだ自力で降りるのを見守っている。


「でも…」

助けなくても降りられると言いたげな瞳だったがセンリは笑って猫に手を伸ばした。


『大丈夫だよ。私が受け止めるから、足を踏み出してごらん』


センリは猫の真下で手を広げて優しく言うと、猫の動きが一瞬止まり、その様子を観察した。


『大丈夫』

猫は意を決したように体制を出来るだけ低くしてセンリの方に足を伸ばし、そこから飛び降りた。
センリはその猫をしっかりと抱き止めて受け止めた。


『ほら、出来た』

センリが腕の中の猫に微笑みかけるとどこか嬉しそうにニャアニャアと鳴いていた。センリはその猫を地面にそっと降ろすと猫は公園を出て走り去っていった。

センリのやり方は猫を助けるというより、手助けをするといったほうがしっくりきた。


『ミナトはあの猫がちゃんと自分で降りられると思ってたんだね』

「はい。だから手を出さずに見ていました」


自分より少しだけ背の低いミナトの頭に手を乗せてセンリはポンポンと撫でた。ミナトは猫を信じて待っていたようだったが、手助けをしたセンリを見て不思議そうな顔をしていた。


『ミナト、自来也との修業はどう?』


ミナトはまだ十ではあったが、戦時中という事もあり今は自来也の指導の元中忍になる為に切磋琢磨していた。


「はい。自来也先生はとても面白くて良い方です。たくさんの術を教えてくれています。それに……大切な事も、たくさん教えてくれます」


ミナトは自来也の事をとても気に入っているようだった。初めは「ワシがそんな事を?」と言っていた自来也の方も、戦場に行くより大切な事をたくさん学んだことだろう。


『あ、そういえば……ミナトはクシナと同じクラスだったね』


前にクシナが一度ミナトを「喧嘩を見てるだけの頼りなさそうな女男」と話しているのを思い出してセンリは訊ねた。


「彼女はとても強い人です」


ミナトが笑って言うのを聞いてセンリはふと分かったような気がした。

クシナの話だとミナトはいつも喧嘩を仲裁せずに見ているだけだと聞いていたので、そのような言葉が返ってくるとは思わなかった。

もしかしたら先程の猫の件と同じなのかもしれないとセンリは考えた。


『そうだね。クシナはとっても強い子だよ』


センリが同調するとミナトは穏やかな笑みを浮かべた。


『でもね、ミナト。見てるだけじゃ、伝わらないこともあるよ』

「…?」


ミナトは驚く程に青い瞳で疑問そうにセンリを見上げた。


『言葉にしないと伝わらないことも、あるからね』

「言葉に……」


ミナトが微かに首をかしげて言うのでセンリは深く頷いた。

相手を信じて見守る事も必要だが、それでも言葉にしなければ伝わらない事もある。

賢いミナトならばその意味を理解出来るだろうと思い、センリはそれを“見守る”事にした。
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