- ナノ -


木ノ葉隠れ創設編

-三代目火影-


戦争は激しくなったり収まったりを繰り返し、ちょうど停戦状態のような状況に差し掛かった。


ヒルゼンが三代目火影として里に定着しつつあった秋。

各地での戦闘が緩やかになっている時期で、木ノ葉の忍達は己の技術を磨き、来たる戦闘に向けて体力を温存していた。

マダラも里に居られる時間が増え、センリの分裂体も時々戦場に赴いていたが、この所はそれも減ってきていた。

里の為に忙しく動き回っているとある日、センリはミトに呼び出され、木ノ葉の森の中にある彼女の自宅を訪れていた。中心街から少し離れた山奥はセンリの自宅がある付近とはまた違った雰囲気だ。

ミトは六十を過ぎてからはベッドから殆ど動く事が出来なくなっていた。センリはその体を支えて起こすと、その口からは予想しなかった言葉が発せられた。


『ミト……本気なの?』

「ええ。自分の死期くらい自分で分かりますから」


ミトはクラマを自分の中から出し、二人目の人間に引き渡す事を考えているのだ。それも近いうちに。

人柱力であるミトからクラマを引き剥がせば、もちろんミトは死んでしまう。しかし歳をとってゆっくりになった口調は一切の迷いが無かった。


『クラマとは…九尾とは話せる?』

センリの問い掛けにミトは首を振った。


「無理です。この妖狐の封印を少しでも緩めればすぐにでも人間達を襲い、暴れ出すでしょう。早々に次の人柱力に封印せねばなりません」


センリはどうにかしてクラマと話が出来ればと考えていたがミトはやめた方がいいと首を振った。もしもクラマが外で暴れ出したとなったら里にも甚大な被害が広がる事は目に見えている。早々に次の人間に封印するのが得策だとミトは頑なだった。


「前々から里内の忍達にも言われていたのです。センリは里の事で忙しかったですからね…戦いが緩やかな今の時期なら、と思ったのです」

『そうだったの…』


戦争中という事でセンリに迷惑をかけないように話さなかったミトだったが、その表情は穏やかだった。


「次の人柱力はすでに決まっています。今はまだ渦潮隠れにいますが、準備が整えばすぐこちらに来る予定です」

『うずまき一族の人?』


センリが問い掛けるとミトはゆっくりと頷く。


「まだ九歳ですが、今のうずまき一族の中では一番強いチャクラと九尾を封印できるだけの力がある子です。あと何年かすれば九尾を封印できるようになるでしょう」

『九歳……その子には話してあるの?』


年齢の低さに驚いたセンリだったがミトが言うなら封印術に関しては相当の実力を持っているのだろう。しかしそれにしてもまだ幼い子どもという事が気がかりだった。


「もちろんです。私から話は通してあります。彼女の家族も納得していて共にこちらに転居する予定です。その者が木ノ葉に到着し状況が整えばすぐにでも儀式を行います。これは極秘事項なので殆どの忍達は知りませんが…」


ミトの話ぶりだとすでにヒルゼンらにはその旨が分かっているのだろうとセンリは思った。


『それは、もう決まってる事なの?』

「…ええ。センリは反対するのではないかと思って今まで言わずにいたのです。許して下さい」


里からの命令なのかミトの気持ちなのかは分からなかったが、センリは少し不機嫌そうに眉を寄せた。


「大丈夫です。これは里にとって必要な事。柱間なら必ずそう言う筈です……。私の身体ももう持ちそうにありませんし……私の跡を継ぐその子の事をどうかよろしくお願いします、センリ」

『ミト……』

「センリ、これは私が自分で選んだ道なのです」


ミトはこれまでセンリを近くで見て来て、心からそう思っていた。穏やかだったが、有無を言わせないようなミトの口調に、彼女の確固たる意思を感じた。

センリはしばらくシワの増えたミトの表情を見つめていたが、深く頷いた。友の覚悟に応えなければ、と思った。


『分かった。その子の事は心配しないで。こっちに来たら私も会うようにするから。その子が嫌って言っても友だちになっちゃう』


昔から変わる事の無いセンリの優しい笑みにミトは安心して微笑んだ。


「ありがとうございます、センリ。……その子の名前はクシナ。うずまきクシナです」

『クシナちゃん、ね。分かった』


センリは細くなったミトの手を両手でぎゅっと包んで、クシナを見守る事を約束した。

[ 197/230 ]

[← ] [ →]

back