- ナノ -


木ノ葉隠れ創設編

-第1次忍界大戦-



今までの戦いとは違う。皆守る為に戦っている。里と、そこに暮らす家族を、仲間を、皆が大切に思ってそれを守る為に戦っている。

仲間を庇ったヒカクも、望んで死んだ訳では無い。

仲間達を殺した他里の忍が憎くない訳では無い。

ただ、十二年前までの、意味の無い戦いとは違う。仲間の為に戦争を続けるのでは無く、仲間の為に戦争を終わらせる。里の為に、仲間を守る為にセンリがその任務を受けた事も重々承知だった。

マダラは確かにセンリの信じる道をまた信じていたし、簡単な方法――つまり力で支配する事の脆弱性もまた分かっていた。

それでもただ、センリの事が心配だった。それが戦争を終わらせる為の事だとしても。

さざ波のように緩やかに押し寄せてくる不安心をどうにか消したくてただセンリの体を抱き締めた。


「俺は身勝手な人間だ」


今度は唐突にマダラが呟くのでどうしたのかとセンリは少し顔を傾ける。右頬にチクチクとマダラの髪が触れた。


「お前は誰よりも強い。きっと戦で死ぬ事なんて無い。それが分かっていて……分かっているのに、里に帰って来る度にお前の顔を見ると安心するんだ。この戦争で仲間を失って、家族を失って、友を失って……悲しみくれている忍は何人もいる。それなのに俺はお前が生きていてくれて…側に居てくれて良かったと安心している。これはあまりにも死んでいった忍に無礼か…?」


最近聞かなかったマダラの、苦悶する様な小さな声だ。センリはマダラがまだ幼い頃、戦争に行って返り血塗れで帰って来た時の事を思い出した。

マダラが弱気な言葉を吐くのは滅多に無い事ではある。いつもは自分の考えには自信を持ち、他人に同調を求める事もない。


だが自分を心から信頼しているからこそ見せる弱音。滅多に見せないマダラの不安の心をセンリはどうにか取り除いてやりたかった。



『大切な人が今日も生きてくれていて良かったと思うのは当たり前だよ。戦で誰かが亡くなって、それは確かに悲しい。大切な人を亡くした忍だっているのも事実。けど……でも、マダラがそう思ってたとしても、みんなはそんな事で怒ったりしないよ。それに私だってそう思う時があるもの』


センリは幼子にそうするようにゆっくりとマダラの髪を解いた。そういえば、まだ戦乱の世だった頃、センリが1人河原で泣いていた時の事をマダラは思い出した。


「そうか…あの時のお前もこんな感情だったのか…」


センリは困った様に微笑し、頷いた。それでもまだ僅かながらの不安が心を過ぎり、マダラの手に微かに力が入った。


「お前は……嫌にならないのか?」


何をと聞かなくても、それを思っている自分の事をセンリが嫌いにならないかという意味だと分かった。限りなく少ないが、過去にもマダラはこうしてセンリの気持ちを確かめている時があった。

センリは薄く微笑んで、マダラを少し離して正面からその顔を見た。いつも強気な眉が微かに下がっていて何かに怯える子どもの様だった。


『嫌じゃないよ。マダラがどんな我儘を言ったって、自分勝手だったって、嫌いになんてならない。私はどんなマダラだって受け止めるって昔から言ってるでしょ?こうして本音を隠さずにいてくれるのだって私を信頼してるからでしょ?それだけで私は嬉しいよ。だから一人で不安にならないでいつもこうして私に言ってよ。どんなマダラの気持ちだって受け止めるから。あなたがそうしてくれているように』


マダラの頬を両の手で包み込むと、黒い瞳が一瞬泣き出しそうに揺れた。


『大丈夫。マダラがもし見てられないくらい傍若無人な振る舞いをしてて身勝手過ぎたら私が一喝してやるから!めちゃくちゃ痛いビンタね!』


凛々しいともとれる笑みを浮かべていたセンリの顔がふにゃりと崩れた。いつもの調子のセンリを見てマダラの心臓がふわりとあたたかくなった。

こうして何度この優しい明るさに助けられたのだろうか。ふとマダラは考えたが、やめた。

深く考えるのはもうよそう。
死んでいった忍達に失礼だから、侮辱になるから、と考えてもキリがない。綺麗事だけではまかり通れやしない世界だ。でも、センリを信じ、大切に思うこの心だけはきっと間違ってはいない。


「やっぱり……俺はお前がいないと駄目だ。こっちの事は任せて自分のやることだけ考えろ。頼むから、怪我無く…それからなるべく早く帰ってきてくれ」

『イエッサー!』


ビシッと敬礼をするセンリを見てマダラの表情がやっと柔らかくなった。

センリの事を心配するばかりではいられない。

センリが戦争を集結させる為に尾獣を探しに行っている間は自分達で里を守らなければならない。負傷者の数が増える前に何とか戦争を終わらせなければならない。

たくさんの覚悟を決めてマダラは再びセンリの体を抱き寄せた。
[ 97/230 ]

[← ] [ →]

back