木ノ葉隠れ創設編
-重なり合う愛-
「センリ」
これは………誰?
私の…弟…?
「センリ」
いや………ちがう。
これは…インドラだ。
幼いインドラが私の名前を呼んでいる。
「センリ、もう一度……抱きしめてほしい」
恥ずかしそうに下を向き、甘えてくるインドラだ。
「センリがこうしてくれると、なんだか不思議な気分になるんだ。出来ない事はないんじゃないかって……そんな気分になる」
それなのに。
「センリ。そばに、居てくれる?」
『待って、インドラ』
私の伸ばした手はインドラに届かずに、空を切る。
「印と術によってこれからそれが武器となってこの世界に戦いをもたらすかもしれない。父上とセンリが作ってきた世界を壊すことになるかもしれない。最近すごく思うんだ。これで良かったんだろうかって…」
インドラが悲しそうに言う。
−−インドラ………
その姿に手を伸ばすのにそれはただの煙となって消える。そしてそれはまた形を縁取る。
「世界を束ねていくのは力であり力による規律だ。いずれ私は忍宗を継ぎその理想を貫く」
−−−違うよ、それだけじゃ……。
「センリ、私はもう子どもじゃない。もう気付いたんだ」
−−−気づいたって、何に?
あなたは一体何に気づいていたの?ねえ…。
「掟は何のためにある?忍宗の力は何のためにある?自分で答えが出せぬならお前は私に従えばいいのだ。頭を冷やせ」
−−−そうだ。気づいていなかったのは、私の方だ。あの時、あなたの本当の心に気づいていれば…。
「…センリは俺の心が読めるのか?俺が欲しいものをいつもくれる」
−−−そんなこと無かった。私はあなたの欲しいものを………ちゃんと分かってなかったんだ。昔も、今も……
「少しだけ……」
−−−あの時、彼は私に最後のワガママを言った。それなのに、どうして………。
「弱き者の助けなどいらない。この力を使い、力による完全なる秩序をつくる。争いのない完全なる世界だ。平和をつくれるのは力だ、センリ。俺はもう分かったんだ」
−−−なんで、わかってあげられなかったんだろう…。気付かなかったんだろう……。
「もしそれに反抗する輩がいれば、力づくで従わせるだけだ。秩序を乱す者はどんな事があろうと許さない。そういう者がいるから争いが生まれる」
−−−なんで、
「そうだ。センリが俺に教えたものは、愛だ」
−−−どうして…!
「…しかしそれは俺にだけではない。センリは皆にそうした。アシュラに、父上に、村の者達に。俺が欲しいのはそんな見掛け倒しの不確定なものではない」
−−−ちがう、ちがうんだよインドラ…!
「だから俺は強くなる。そしてセンリはずっと俺の隣にいればいい。俺が争いなど起こさせない。センリを穢させない」
−−−そうじゃないの…!!
「やはり…忍宗など………忍宗などがあるから…」
−−−待って、
「アシュラ………俺はお前を決して認めない!忍宗を認めない!」
−−−行かないで!
「ワラワはお前を許さぬ」
−−−やめて……。
どうしてそっちに行っちゃうの?
「お前のせいだ」
−−私のせいだ。私がそうしたんだ。
自分の両親でさえいなくなって、弟を残して死んで。
「姉さんは卑怯者だ。ずっと、オレに嘘をついていたじゃないか」
違う……違う、そんなこと、きっと私の弟は言わない―――。
「何も違わぬ。お前は何も守れず、何も残す事が出来ぬ人間だ」
そう、私は守れなかった。守りたかったのに。大切だったのに。
私がバカだったから。
私が気づけなかったから。
止められなかったから。
何も出来なかったから。
わたしが、
「そうだ」
弱かったからだ。
だからインドラも、カグヤもいなくなった。
大切だった家族をなくした。友だちを殺した。
心を受け止める事が出来なかった。
カグヤもインドラも一人で行ってしまった。
私がそうさせた。
近くにいたのに。
あんなに近くにいたのに。
「センリ、許さぬ………自分だけ幸せになるなど、絶対に許さぬ…」
カグヤ……
「お前が俺の気持ちに気づいてさえいれば……俺だけに愛を捧げてさえいれば………あんな事にはならなかった」
−−イン、ドラ
「お前が……気づいてさえいれば…―――!」
イヤだ…。
「全てお前のせいだ」
…そうだ。私の、せいだ。
ごめんなさい。
インドラ…カグヤ……。
「嘘つき」
インドラ……
「ずっと側にいるって言ったのに」
やめて………!
「裏切り者」
やめて!
「センリ」
………マダラ?
ねえ、マダラ。
なんでそっちに行っちゃうの?
そっちは暗い場所だよ。そっちじゃないよ。戻ってきて、お願い、
せっかく夢が叶ったんだよ?
どこ行くの?
ねえ、
戻ってきてよ。
ねえ、
なんで私に背中を向けてるの?
「お前は俺に届かない」
なんで?
なんで手を振り払うの?
なんで置いていくの?
イヤだ………。
いやだよ………。
行かないで………!
行かないで、マダラ…………!!
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