- ナノ -


木ノ葉隠れ創設編

-重なり合う愛-


センリが夕食を作り終える六時過ぎになるとイズナが帰ってきた。家を出てから十日間といえど久しぶりに見るような気分だった。何だかんだマダラも十日ぶりに会う弟と話に花を咲かせていた。

マダラの誕生日にはいつも彼の好物である稲荷寿司が並ぶ。何回見たか分からないが、マダラは大人になっても稲荷寿司を要望した。

三人でテーブルを囲むのはやはり楽しかった。
イズナはアカデミーの様子を細かく話してくれたし、マダラも笑みを浮かべてそれを聞いていた。


『イズナってば楽しそう』

「楽しいよりも大変さの方が勝ってるけど……姉さんよく一族の何人もの子どもたちと遊んでたけど、すごいな。今は尊敬するよ」


食後の温かいお茶を啜りながら本当に疲れたようにイズナは息をついた。


『イズナだってその中の一人だったんだよ〜。まあイズナは甘えんぼだったからマダラにくっついてばっかりだったけどね』


センリが当時を思い出してふふ、と笑うとマダラも「そうだったな」と頷いた。


「やめろよ、恥ずかしい…」


困った様に眉を下げるイズナがかわいらしくてセンリは再び微笑んだ。


『お風呂だってマダラはすぐ入ってくれなくなっちゃったけど、イズナは十歳まで一緒に入ってくれてたもんね』


浴場できゃっきゃっと騒ぐ幼い頃のイズナはよくそのまま足を滑らせて痣をつくっていた。


「そうだったか?イズナは随分とセンリを気に入っていたんだな」

「子どもの頃の話だろ?もう覚えてないよ」


マダラがしたり顔でイズナを見れば少し呆れたように兄を見るイズナ。


『ええっ、私は鮮明に覚えてるのに…』


センリが残念そうに言うとイズナがハッとする。


「そんな記憶消してよ。いらない事ばかり覚えてるんだから姉さんは」

『そんな事ないよ!マダラが何故か足の裏を虫に刺されて痛くて草履履けないって騒いでた事も覚えてる!』

「そんな事あったか?本当にいらん事ばかり覚えてるな」

『いらん事じゃないよ!イズナがチャクラをコントロールできなくて川で溺れかけてたのも覚えてるよ。すんごい浅いところだったのに』

「くそぅ、姉さんの恥ずかしい事してる場面が全く思い出せない…」

『マダラのおしっこ入りの川に投げ込まれたことならあるよ』

「…あれは用を足してる時にお前がいきなり後ろから現れるからだろう」

『でも川に落とすなんて酷いよ』

「………兄さんそんな事したんだ」

「センリが悪い」

『でもおしっこ入りの水を飲んじゃったかもしれないんだよ』

「…………兄さん…」

「その目やめろ、イズナ」

『あはははっ』


三人で語り合っていれば時間なんてあっという間だ。楽しい時間ほど早く過ぎていく気がした。

センリはイズナはここにとまっていくと思っていたが明日も仕事があるというので八時前に自宅へと帰っていった。そう言われては仕方ないのでセンリとマダラはイズナを送り出した。玄関を開けると隙間から新しい寒さが家に入り込んだ。


寒さに震えたセンリは、マダラの後に少し長風呂をした。新しく家をつくってから風呂場も割と広い。小窓を少しだけ開けると冬の匂いが寒気と一緒に入ってきてまるで露天風呂にでも浸かっている気分になった。


『(この広さだったら三人で入っても広々だったなー)』

うーんと浴槽の中で足を伸ばしながらセンリは口の上まで潜り込んだ。風呂洗いは多少疲れるが広々とゆったり湯に浸かれるのはセンリにとって極楽の時間だった。


ほかほかした体を湯冷めしないようあたたかい服に身を包みセンリが部屋に戻る。そして寝る直前ふと思い付いたようにマダラに提案した。


『ねえ、マダラ。今日は隣で寝てもいい?』


毎年イズナとマダラの誕生日には三人揃って寝ていたせいか、一人で寝るのも少々寂しく思いセンリは枕を持って問いかけた。マダラは一瞬驚いていたようだったが了承したので、センリは笑顔になって布団を並べた。
冬の時期最初に布団に入ると布の冷たさに鳥肌が立つ。とっくりと下穿きを着流しの下に着ていないと寒さで震えて眠れなさそうだ。
頭を動かして隣を見ると暗闇の中にマダラの影が見える。そうすると何故かセンリの心は安心した。


『マダラ…手、繋いでもいい?』


マダラとの間にある微妙な距離が何だか寂しくて、センリは手を布団から出してマダラの方に伸ばした。布団から出ると途端に冷えた。


「…どうしたんだ」


不思議がる声が聞こえたが、すぐにセンリの手の上に、マダラの大きな手が重ねられた。


『こうしてると安心する』


センリの言葉にマダラは幼い頃を思い出した。子どもの時はセンリが一緒に寝ると安心して眠れたものだ。何だかマダラには手を伸ばしたセンリの気持ちが分かった気がした。


『ちょっと前まで私の手で包めるくらいだったのにな……大きくなったね』


母親のようにしんみりと言うセンリの言葉にマダラは少しだけ笑った。


「当たり前だろ」


マダラはセンリの手をきゅっと握った。今はマダラの手で覆い隠してしまえるくらいセンリの手は小さい。細くて滑らかで、温かかった。センリの呼吸の音が微かに聞こえる。


『…………』


センリが声を発さないので、マダラが頭をもたげてセンリの方を見る。規則正しく息をするのが聞こえてセンリが眠ってしまったのだと理解した。相変わらずの寝付きの良さにマダラは笑いを押し殺した。


「(相変わらず鈍感というか無防備というか………あれだけ言ったのに、まるで危機感がないな。それもまあ、俺を信頼してるって事か…)」


ため息をついて瞼を閉じる。センリの手を握り、そ
の静かな寝息を聞いていると不思議と安らかに意識が遠くなった。

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