- ナノ -


木ノ葉隠れ創設編

-重なり合う愛-



千手と手を組んで里作りを初めて三ヶ月弱。あれからの毎日はやる事が多くて本当に忙しい。

特に柱間は執務関係が苦手らしく一人だと全然終わる気配が無い。その為実質側近として俺が色々とこなしてはいるが、里が出来たばかりってのもあって尋常ではない量だ。
まあ、その為あの扉間も共に執務をこなしているんだが…。扉間と一緒の事をするのは少しばかり癪だが、実際俺が手伝っても中々終わらない量の時が殆どだから、仕方ない。そのうちに里内のシステムが安定すれば、今よりマシになるだろう。


俺は部屋の反対側で書類を広げている扉間に一瞬目をやる。戦の時に見た数々の鋭い表情も殺気もない。しかしこいつは一度イズナを死に追いやった男だ。憎むべき、相手だ。

イズナがあのまま死んでいたのなら…俺はこいつを殺していただろうか。


……今となっては少々卑屈な考えにも思えてくるから不思議だ。平和呆けしているのかと思えばそうなるかもしれないが、それにセンリはそれを望まないだろう。今更そんな事を考えても仕方ない。


筆を片手に何やら唸っている柱間の後ろに見える景色に目をやると、冬の夕日が沈みかけて来ていた。ふと時計を見れば時刻は四時。日が沈むのも早くなったものだ。


今日は十二月二十四日。俺の二十八回目の誕生日だった。戦争中ならこの歳まで生きていたら割といい方だったってのに。こんなにも簡単に時代は変わるもんなのかとやはり驚きはする。

家ではセンリが稲荷寿司でも作っている最中だろう。今日はイズナもこっちに来れるらしいから、センリは朝から嬉しそうだった。幸い珍しく今日はもう仕事は終わっている。そう考えたら早く帰るべきかと思い付き、俺は手元の巻物を閉じて柱間に声をかけた。


「柱間、後はその書類を書くだけだろ?先に帰っても構わないか」


柱間が顔を上げてこちらを見る。間抜けな顔だ。数行文字を書くだけだってのに、まだ筆を下ろしていないのか…。


「うん?まあ確かにこれで今日の仕事は終わりそうだから、別に構わんが…」


柱間は一瞬不思議そうな表情をした後、歓笑してこっちを見てきた。何故だか得意げだ。


「そうか。今日はマダラの誕生日だったか」


何故知っていると言いそうになったが、そういえば最近俺の誕生日がいつだとか聞いてきていたな…。昔と変わらない、気色の悪いニヤニヤした笑みを浮かべてやがる。無性に腹が立つな…。


「何をニヤニヤしてる」


無意識に眉を顰める。こいつは本当に大人になっても本当に変わってないな。


「いや、早く家に帰るといい。センリが御馳走を用意して待っているんだろう?」


なんでこいつはこんなにニヤけてんだ…。扉間はじとっとこっちを見てくるし、腹立つ兄弟だ。


「言われなくともそうするさ」


一先ず扉間の視線は無視して、俺はさっさと書類を柱間の机に置いて羽織をはおった。今日は冷えるだろうからとセンリに持たされたものだ。

火影室を出る時後ろから「明日はゆっくりするといいぞ」という柱間の声が聞こえて、一度振り返る。扉間はその分の負担が多くなると考えたのか、憂鬱そうな顔を浮かべている。少しいい気味だと思いながら俺は戸を閉めた。


火影邸から一歩外へ出ると寒さで背中が震えた。センリが羽織りを持っていけと言ったことは正解だったなと思いながら、早足でセンリが待つ家に向かう。街を出たら走った方がいいかもしれない。息を吐くたびに白い煙が微かに出てくる。中心街から少し外れた森の中にある自宅の近くは、さらに寒さが増す気がした。


早く暖を取りたくて玄関の戸を開ければ、すぐに床を蹴る音がして『おかえり』という声と共に、前掛けをしたセンリが現れた。もう夕食の準備をしているのだろうか。いつものように柔らかな笑みを浮かべるセンリを見ると、不思議と口元が綻ぶ。柱間の笑みとは大違いだ。返事をして羽織を脱ぐと、センリがそれを受け取る。


『今日は早いんだね』

「この後イズナも来るんだろ?早目に帰ってきた方がいいかと思ってな」


玄関の敷居に腰を下ろして忍靴を脱いでいると、後ろからセンリは『楽しみ』と言って鼻歌を歌い始めた。やたら嬉しそうだ。十日程しかイズナと離れていなかったってのに…やはり寂しかったのか。


『まだご飯まで時間あるからゆっくりしててね。今日は寒かったでしょう?上着持っていって正解だったね!ストーブつけたから部屋、あったかいよ』


センリから労りの言葉を聞くだけで疲れが解きほぐされる。センリの言った通り居間は暖かい。さすがに素足は冷えた。便利になったものだと思いながら電気ストーブの前に座り込んで暖をとる。


『マダラ』


台所に向かったと思っていたセンリの声が聞こえて振り返る。布か何かを抱えている。センリははにかんで俺の前に来て膝をついた。


『これ、編んだの。里ができてから毛糸が買えるようになったからマフラー。誕生日のプレゼント』


センリは手に持ったそれを差し出した。白と黒、二つあるようだったが、俺に差し出されたのは白い方だった。


「襟巻か…」


手触りは滑らかだった。手に取って見てみると月白色、センリの髪色とよく似た、薄い銀色みを含んだ白色だ。


『マダラって黒っぽいから最初は黒にしようと思ったんだけどね。白にしたんだ』


センリは恥じらいを含んで微笑した。じゃあ黒い方はどうするんだと聞く前にセンリが口を開いた。


『黒は、私がつけようと思って』


顔一杯に無邪気であでやかな笑みを広げながら言うセンリ。なるほど。白い色はセンリで、黒は俺だから逆につけるってことか。


『マダラがいない時はこれ、着けるの。そうすれば近くにいる気がするかなって思って』


黒い襟巻を胸に抱いて屈託なくニコニコするセンリ。
世の中の全ての愛らしさを全部引っ捕らえて詰め込んだような人間だ。なぜここまで愛らしい行動を取れるのか…本当に恐ろしい奴だ…。

しかし、センリの破顔する様を見ていると、少し勘違いをしてもいいのかという気分にもなる。センリ自身は俺を家族だと思ってそうしているのかもしれないが…。

ふとそう考えもしたが、俺は思わずその頭に手を当ててグイと引き寄せた。センリは倒れ込まないように俺の肩に手をついた。


「ありがとうセンリ。お前だと思って毎日つける」


こんなふうに人に何かを貰うのなんて初めてだった。そしてそれがセンリからなら、こんなに嬉しい事は無い。

するとセンリは肩に付いた手に力を入れて俺から離れた。その顔は分かりやすく赤らんでいる。


『い、いや、寒い日だけでいいよ!』


同じ事を言っただけなのにこれだ。自分で言うのは恥ずかしくないのに、言われると途端に照れるとはどういう事なんだ?焦ったようなセンリが可笑しくて自然とふ、と笑いが漏れる。

本当にセンリといると飽きることが無い。


『玄関に掛けとくから寒い時は使って。じゃ、私は夕飯の準備シテキマス』


羞恥心を俺に隠そうとしているようだったが、丸分かりのセンリは、襟巻を持ってやや小走りに今度こそ台所に向かった。

センリの彫刻のように整った顔が羞恥に染まる様は見ていて心地良い。他の誰も知らないのだと思うと征服欲にも似た満足感が湧き上がる。

愛情表現や褒め言葉を言うのは全く俺らしくはないのだが、それをしなければそもそも鈍感すぎるセンリは気付いてはくれない。それに俺の言葉で一喜一憂して喜んだり頬を染めたりするセンリは、本当に、どこかに閉じ込めておきたくなるくらい愛らしかった。

それと同時に、それを他の誰にも見せたくないという嫉妬じみた束縛感もふつふつと抱いてしまうのだから、俺はもう末期かもしれない。センリにこれ程までにのめり込むなど…。


電気ストーブから出る暖かい熱気をふわふわと浴びて、ふと考えながらイズナの帰りを待った。

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