木ノ葉隠れ創設編
-失ったものと続く未来-
『綱手』
霊園の一つの墓の前に立っている綱手の後ろ姿に声をかけると、その体がピクリと動いてこちらを振り返った。
「センリ……帰ってきたのか」
センリは頷く。綱手の目は赤く充血していた。きっと何日も泣いていたのだろう。
その目線の先にある墓には“加藤ダン”という名前が刻まれていた。
『……』
センリは項垂れる綱手にそっと近付き、その背中に手を当てる。
綱手は今回の戦争で、家族に続いて最愛の恋人までも失ってしまったのだ。
「どうして……どうして、大切に思う人ばかりが消えて行くの………」
センリからは綱手の表情が見えなかったが、感情を必死に押し殺した、悲しみの声だった。
『綱手……』
綱手は涙を流していた。下がった髪の間から雫が地面に落ちる。センリは胸が痛くなり、背中に置いた手で優しく摩った。
『大切な人がいなくなるのは……悲しい』
センリの睫毛が影を落とし、綱手の体がピクリと揺れた。次の瞬間、綱手はセンリの手を振り払う。
「センリに…―――センリになんて、分かるはずない!」
突然の綱手の大声にセンリは驚き、目を見張るが、綱手は涙を流したまま叫ぶ。
「あなたに………分かるはず、ない…!大切な人が側にいるセンリに……私の気持ちなんて、分からない!」
センリが初めて見た綱手の表情だった。怒りと悲しみに身を任せ、ただ感情のままに言葉を吐き出す綱手を見てセンリの心が痛んだ。
『綱手…』
「……っ…」
センリの傷付いたような顔は分かっていたが、それよりも大切な人を失った絶望と後悔が綱手の感情全てを包み、どうにも出来なかった。
センリの言葉を聞く前に綱手は振り返り、霊園を出て行ってしまった。センリはその背中を追うことはせずに、ダンの墓に視線を移す。
「……あんな事を言われて、言い返したくはならないのですか?」
『……ならないよ』
気配も無く隣に現れた大蛇丸に驚きもせずに、センリが答える。
センリはふと足元に落ちている光る物を拾い上げる。それは綱手が大事にしている、柱間が生前付けていた首飾りだった。
それを手のひらに包み、ぎゅっと握り締めた。
『大切な人がいなくなるのは……悲しいことだから』
大蛇丸は哀しそうに伏せられたセンリの瞳を見た。
不憫だと思った。
センリは何年も生き、そしてその間で多くの悲しみを体験してきた筈だ。それなのに、大切な人がいなくなる辛さが分かるはずないと突き放され、それでも尚それを責めようとしないセンリが不憫だと思った。
「この世は残酷……どうにもならない事ばかりです……。あなたは優し過ぎる。今の忍世界では、あなたの慈愛は意味をなさない」
『そんな事ないよ』
否定の言葉さえも優しい音色だった。
どの言葉に対しての否定なのか大蛇丸には分からなかったが、センリが可哀想に見えて仕方なかった。
「(もしも……この人にとっての大切な者全てに永遠の命があれば…………そうすれば、そんなに寂しそうに笑う必要はなくなるのに)」
無理に笑っている訳では無いのにどこか悲しげな笑顔。この世界の残酷さを感じてきたからこその笑顔。全てを知っているからこその悲しい笑顔に、大蛇丸は何の言葉も口に出来なかった。
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