木ノ葉隠れ創設編

-弥彦と小南と長門-


「……?」


夜、自来也はふと何かの音を感じて目を覚ました。隣の布団を見ると、長門とセンリの姿が無かった。
不思議に思って体を起こすと小屋のドアの向こうから微かな話し声が聞こえてきた。

自来也は小南と弥彦を起こさぬようにそっとドアに近付いた。


――――――――――

「あの時……弥彦が傷付けられた時、ものすごく相手に腹が立ったんだ。その後、頭が真っ白になって……無我夢中で………それで、気が付いたら相手は倒れてた……」


長門は涙声だった。


「その後、すごく怖かったんだ……。憎くて…我を忘れてボクが相手を…!」

この前の事が余程怖かったらしく、その声は震えている。


「ボクのした事は間違ってて………!ホントはもっといい方法が…!」

『長門』


長門の言葉を遮るようにセンリの声が重なった。その声はいつものように穏やかだった。


『それが間違っているのかどうかは、私にも分からない。多分、誰にも』

「………」


小さな子に語りかける、ゆっくりとした口調だった。


『でも、長門はその忍を傷付けたかった訳じゃない。弥彦を…友達を守りたかった。そうでしょう?弥彦を守る事が出来た。それは絶対に悪い事じゃないよ』


自来也には見えなかったが、きっとセンリは長門の頭を撫でているのではないかと思った。


『長門、あなたは両親を失くした痛みを知ってる。だからこそあの場で忍を倒した事を後悔してる。あの忍を傷付けない方法があったのかもしれないのにって。それはあなたの心が優しいからだよ。

痛みを知っているからこそ、人に優しく出来る。相手を痛めつける事じゃなくて、その痛みを知っているからこそ相手にも優しく出来る。傷つけ合うばかりじゃない。そうやってあなたみたいに考えられる人間もいる』

「………」


センリの言葉は自来也が思っている事全てだった。


「それって………どういうこと?」


少し長門には、難しかったらしく不思議そうな声が聞こえた。微かなセンリの笑い声も続けて聞こえた。


『…長門は、どうしたい?』


センリの問い掛けには若干の間があった。数十秒程沈黙が続き、長門がどうしたいのか考えている事が聞いて取れる。


「弥彦は………ボクと小南がお腹を空かせて泣いている時に助けてくれた。人の食べ物を盗んでまで……」


長門の声はもう震えてはいなかった。


「ボクはただ、二人を守りたい。どんなに痛みが伴うことがあったとしても」


初めて聞く、長門の凛とした声だった。


「(長門……)」


自来也は小南と弥彦に対する長門の深い思いを改めて確認した。それ程までに強い思いがあったとは、知らなかった。


『そっか。じゃあ、長門ならきっと大丈夫だよ。大切な人を守りたいっていう気持ちがあるんだから!その気持ちは、何よりも大切なものだよ』

「うん!」


優しい声に長門もきっと微笑みを返している事だろう。そしてセンリは長門の頭を優しく撫でている。

見えないはずの情景がハッキリと頭に浮かんで、自来也は無意識に自分の口角を上げ、満足そうに布団に戻った。
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