- ナノ -


木ノ葉隠れ創設編

-三代目火影-


戦争が始まって早々、突然の二代目火影の死は里中に衝撃を与えた。


二人の死因を知っているのは忍の中でも多くはなかった。ただ、里の為に命を落としたという噂だけは瞬く間に伝わり、皆が扉間の死を悼んだ。

葬儀は里に帰還していた忍達で密やかに行われる事になった。扉間を慕っていたヒルゼンやカガミは涙を堪え、黙祷を捧げていた。


戦場から戻ってきた自来也や他の忍達も突然の死に驚きはしていたが、やはりすぐに状況を受け入れた。


二代目火影の最期を目にしたのはセンリとマダラだけだったが、二人はその時の事を一生忘れないだろうと思った。

二人にとってずっと共に過ごしてきた家族であるイズナが死んだ事は確かに大きな事ではあった。二人がイズナを見たのは木ノ葉から雷の国へと旅立つあの時が最後で、その自信気な笑顔は深く二人の心に刻まれていた。



イズナの住んでいた家の片付けが終わり、自身の家の仏壇の前に座り、微笑むイズナの写真を眺めていると、センリは突然家族を失った実感が湧いてきていた。


『イズナは、とってもかっこよかった』


隣に膝をついていたマダラはセンリを見下ろし、そっと頭を引き寄せた。


「誰だと思っている。俺たちの弟だぞ」


『そうだよね。さすがイズナだね。イズナのおかげでたくさんの命が救われた』


数十年前、戦で命を落とすことは「立派だ」と言われた。だが今回イズナが選んだ死は、その何十倍も何百倍も立派に思えた。誰かを守る事が出来たという事実は、敵をいくら倒したとしても超える事の出来ない誇りだ。


「…お前が眠ったまま目を覚まさなかった時……イズナが俺に眼を差し出し死んでいった時、俺の頭の中を占めていたほとんどは、イズナに致命傷を与えた扉間への“憎しみ”だった」


マダラは囁くように話し、センリは静かにそれを聞いていた。


「そしてイズナの心にあった感情も“後悔”だけだったろう……。うちはの未来が気がかりで、悲嘆と苦悶の中、目を閉じていったはずだ」


マダラの低く囁く声は、センリにとってとても心地の良いものであった。


「だが、今回は違う」

マダラの声には妙な確信があった。


「あいつは恐らく、自分自身で扉間と共に闘う事を選んだのだろう。そして、自分達の死は無駄になる事はなく必ず里の未来に繋がるはずだ、と…イズナはそう思って、ヒルゼン達を命を懸けて逃がしたのだろう」


センリはこくりと小さく頷いた。心からそう思っていた。



「不思議だ……以前イズナが死んだと思った時、あんなにも絶望し、憎しみに駆られていたというのに……―――。今は、不思議なくらい落ち着いている」



マダラの中ではイズナを殺した人間への憎悪よりも、イズナの生き方を想い静かに弔いたいという気持ちが大きいというのもまた不思議な事だった。だがそれはセンリも同じだった。



『それは……イズナが真っ直ぐ自分の道を貫いたから、かな…。イズナはきっと後悔していないと思うし、それに…私達からの愛情もきっと、ぜんぶ分かってくれてたと思う』

「それはそうだろう。お前はたくさんの言葉をイズナにくれてやったし、何度も抱き締めてやっていた。充分過ぎる程、お前の思いは伝わっていただろう」

『そうだよね……マダラも、イズナにはとっても優しかったもんね』


センリは少しだけ微笑み、マダラもそれに答えるように優しく頭を撫でた。



「お前が、扉間の側近にイズナを選んだのは、今となっては正解だったのだろう。共に居る事でイズナの中の憎しみもいつしか消えて、それ以上の重要な何かを見つけられた……。俺は扉間を好かんが、あいつがイズナに対して向けていた感情は確かに“信頼”だったのだろうとも思う。故に、戦国時代のイズナの死と、今回の死とでは全てがまるきり違う」



戦国時代のイズナの生き方、それから扉間の側近だったイズナの生き方。それにどんな大きな違いがあり、それぞれがどんな大切な成長を含んでいたのか、センリにもしっかりと分かっていた。弟の生き方は、とても立派だったと思えた。



『私は……イズナと扉間くんは、ちゃんと心を受け止め合っていたと思う』


不安定な関係だったかもしれないし、朧気な存在だったかもしれない。だが二人を見てきたセンリもマダラも、それが二人にとってどれだけ大事なものだったか分かり切っていた。


「そうなのだろう。イズナの最期の表情は、あんなにも穏やかだったのだから」



イズナも扉間も、結局は里の為に命を捧げたのだ。

マダラは弟のした事は立派だと思ったし、後悔はしなかった。悲しみは大きくあったが、不思議と後悔の念が無かった。

三十五年前、扉間に一度殺された時、あれ程復讐の波に呑まれかけていたのに。その扉間と共に戦って死んだイズナの事が、どうしようもなく立派に思えた。

きっと弟は分かっていた。全て理解していた。



写輪眼が無くとも、里の為に、誰かのために立派に生きられる事。憎しみは乗り越えられる事。



イズナの歩んだ人生は、見事なものだった。



「ゆっくり休め、イズナ……」


自然と口から言葉が溢れた。

弟はよく頑張った。労りと感謝だけが心を渦巻いていた。

マダラも、もちろんセンリも自分の弟の思い出を、生き様を、しかと胸に焼き付けた。
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