木ノ葉隠れ創設編
-扉間とイズナの最期-
「…はっ……」
金角部隊を巻いてからもう随分経った。
そろそろあ奴らは木ノ葉に辿り着いただろうかと考えながら木々を見上げる。もうすぐ午後三時といったところか。火影室にセンリが茶を運んでくる時間だとふと思うと、どうしてか全身から力が抜けてしまい、地面に膝が当たる。
背中からイズナがずり落ちて、それにつられて地面に手をつけてしまった。
木ノ葉までは後五十キロも無いというのに、その距離が異様に長く感じた。
もう駄目かもしれない。
「くっ……」
金角部隊から致命傷を受け、もう身体中の血が失われてしまったように感じた。自分が歩いて来た道を振り返ると所々に赤い血が見えた。
これではすぐに見付かってしまうかもしれないとも思ったが、金角と銀角以外の忍達は何人か殺った。やつらにも深手を負わせたので、早々追いつかれないだろうと考え直した。
身体中のチャクラは金角達に奪われ、致命傷も与えられ、もう体が限界だった。オレにはもう、飛雷神を使うチャクラさえも残っていなかった。
左目が熱い。
右目も、頭からの出血で視界が赤く染まって見えた。息が苦しい。心臓がおかしくなったように脈打っている。どうにか手と足に力を入れて立とうとしたが、無理だった。右足は完全に折れている。すでにどこに力を入れて立ち上がればいいのか、分からなかった。
気力だけはまだあるのに、完全に体の力が尽きて、イズナが仰向けに転がってしまった。
もう動く事の無い、血塗れの体にオレは手を伸ばす。
イズナが殺られてから既に何時間か経っている。死後硬直で硬直しつつある表情は嫌に安らかに見えた。
「(何とか……イズナだけでも、木ノ葉に…)」
イズナを家族の元に連れ帰りたかった。本当なら、生きている状態で……。
センリとマダラが、イズナの帰りを里で待っている。
『一緒にラーメンを食べよう』と、嬉しげな表情でイズナに約束を取り付けていたセンリを思い出し、オレは何時になく胸が痛んだ。
オレはどうしても、そこへイズナを連れ帰ってやりたかった。
「(これでは……またマダラに嫌味を言われてしまいそうだ)」
「私的な感情だらけだな」
そう言うマダラの、不機嫌そうな顔が思い浮かび、オレは少し可笑しくなった。
しかし…もう何を考えようと、駄目そうだ。オレは死ぬだろう。
サル達にはオレの意志を託した。あやつらなら、心配はいらない。火の意志は決して消える事はない。兄者がオレに託したように、また燃え上がって繋がっていく事だろう。
だが、死ぬ前に、イズナに二人の顔を見せてやりたかった。
それだけが後悔だった。
とうとう首にも力が入らくなり、地面に頬を付けた。冷たい地面のはずが、妙にあたたかく感じた。
死ぬか。
オレは自分の限界を感じて右目を閉じた。
だが、
『……〜…!』
幻聴かとも思った。
だが次の瞬間それは突然、オレの聴覚に直に感じていた。突然生き返ったような感覚だった。
『扉間くん!イズナ!』
すぐ側で聞き慣れた声がして、オレは僅かに目を開けた。
『扉間くん…!』
センリの白い服が揺らいだかと思うと、体をゆっくりと仰向けにされ、今度は心配そうに眉を下げた顔がぼやけて視界に入った。
『すぐに治すからね!』
ああ。
幻覚でも、幻聴でもない。
センリだった。
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