木ノ葉隠れ創設編

-火影と側近-


柱間の火影就任式も無事に終了し、火影を里長とした本格的な里作りが始まった。


柱間とマダラ、それから扉間、そしてセンリの助言を受けながら里の内部のシステムも着々と生み出されていった。


これからの忍達は里と、そこに生きる子どもたちを守っていく存在になるべきだとして、まずは柱間が考えていたように忍達を力量別に分けることにした。忍の中でもやはり技術や力量の差はある。分けた方がこれからの里のシステムに合うだろうし、力が及ばない未熟な忍を戦わせることもなくなる。そしてこれから里にも様々な依頼や任務が舞い込んでくるようになる。それをランク分けしてその任務に見合う忍達がこなして行くという制度だ。


今、里にいる忍達を把握しなければならなかったが、一族ごとに族長であった忍達の力を借りればそれほど時間はかからないだろう。それから忍達の協力を得ながら、今現在里にいる忍を大体の力にランク分けすることも何とか完了しそうである。


これからの忍は、忍養成施設でその知識や技術等を得て、忍として申し分無いと判断されれば一人前の忍としてなるべく低いランクの任務にとりかかれるようになる。そしてそこから忍として本格的に修業をしていくのだ。


そこでセンリは柱間に相談があった。

火影室で椅子に座る柱間にセンリはその相談を持ちかけていた。マダラは珍しく他の用事で不在で、柱間の隣には扉間が立っている。


「相談とは何ぞ?」


柱間と扉間にお茶を入れに来たセンリに問い掛ける柱間。


『これから忍養成施設には大人の忍を先生としてつけるでしょう?』


今養成施設では里の忍が交代で子どもたちを見ていたが、それを一人に絞った方が今後もやりやすいのではないかという柱間たちの計らいだ。

柱間は一口お茶を啜り、頷いてセンリを見た。


『その、最初の先生をね、イズナに任せてくれないかなって…』


予想しなかったセンリの言葉に柱間は三度瞬きを繰り返し、コトリと湯呑みを机に置いた。


「イズナを?」


柱間が聞き返すとセンリは口をきゅっと結んで深く頷いた。


「随分突然だな。何故だ?」


今度は扉間がセンリに尋ねる。センリがそう言うなら何か理由がある事は分かっていたが突然の申し出に二人とも面食らっていた。センリは扉間と柱間とを交互に見てゆっくり言葉を選んだ。


『イズナね、もう写輪眼が使えないの』


今度は柱間も扉間も見てわかるくらいに驚いていた。

「どういう事だ?」


訳が分からないというふうに扉間が眉を寄せる。


『色々あってね…とにかく写輪眼も万華鏡写輪眼ももう使えないの』


イズナが一度死んだ事は勝手に口外しない方がいいと思い、言わなかった。その口ぶりに二人はあまり深く聞く事はしないほうがいいと悟ったようだ。扉間さえ自分が一度イズナを殺したことを知らない。


「それは絶対の事実か?」


柱間の言葉にセンリは少し悲しそうに首を縦に振った。


『うちは一族といえば写輪眼って言うくらいでしょ?イズナは写輪眼が使えなくなってから表には出さないけど悩んでると思う。私とかマダラの前では何でもないように振舞ってるけど………一族の為に、里の為に何も出来ないんじゃないかって、そう思ってる節もあると思うの。
だから…だからこそイズナに子どもたちと接して、そして気付いてもらいたい。写輪眼が無くたって人を育てる事が出来るって……何かを与える事が出来るんだって。子どもたちと触れ合えば学ぶ事もたくさんあると思うんだ』


切実な瞳で、それがセンリの深い思いなのだということが手に取ってわかるような真剣な顔つきだった。センリがこうして普段のおどけた表情ではなく驚く程真剣に物事を相談する事は珍しい。


『写輪眼がなくてもイズナは十分強いと思うの。それに、火影の推薦だって分かればイズナも引き受けてくれると思うんだ』


それは柱間も扉間も分かっていた。特に扉間は何度もイズナと一騎打ちをした事がある。兄と共に一族を収めてきたイズナの実力は写輪眼がなくとも申し分ない。

柱間は様子を伺うセンリに微笑みかけた。


「分かった」


柱間が何か独断で物事を決めればいつも「兄者!」と言って必ず扉間は制していたが、今回はそれがなかった。頼み込むセンリの表情が途端に笑顔になる。分かりやすい奴だと扉間は思った。


『ありがとう柱間!マダラには先に言ってあるけど……イズナには柱間から言ってほしいんだ。私が言ったんじゃ説得力ないしね』


そう言ってセンリは朗らかに笑った。


「いや、イズナの実力なら誰も文句は言わないだろう。イズナには俺から頼んでおくから安心してくれ」


普段執務に関してはお手上げでマダラと扉間に任せているところがあるが、こういう時柱間はちゃんと話を聞いてくれるし頼りになる。センリは柱間にニッコリした。


「センリはイズナの事を本当の弟のように慕っているのだな」


まるでセンリの顔は弟を思うそれだった。そんなセンリを見ていると柱間の心があたたかくなる。


『もちろんだよ!小さい時も一緒に暮らしてたし、今もすごいかわいいんだよ。柱間も分かるでしょう?弟のかわいさ』


柱間は隣に立つ扉間を見上げた。


「ハッ……兄者も分かるのか?」


何故か弟に鼻で笑われ、柱間はガクッと頭を下げ項垂れた。


「分かるぞセンリ、扉間も昔はとてもかわいかったぞ…昔は…」


涙を流しそうな勢いで落ち込む兄を見て扉間はため息をついた。


『確かに扉間くん、小さい時かわいかったよね』

「お前、昔に一度見ただけだろう。適当なことを言うな」


センリも柱間に同情するが扉間が鋭く言葉を返した。センリは一度、タジマと仏間が退治した時に当時十二歳だった扉間を見ているが、それはその一回だけだ。


『覚えてるよ!それに、大丈夫、柱間。扉間くんは今でもかわいいよ』


にこにこしながら言うセンリを復活した柱間が見やる。しかし扉間は眉間に皺を寄せていた。


「そうか?」


『うん!柱間の事が大好きだって、扉間くんを見てればわかるもん』


柱間の言葉に自信ありげにセンリが返す。確かに旗から見れば兄に対して厳しい弟に見えるが、それは愛情の裏返しでもあり、愛があるからこそ出来る行為だとセンリには分かっていた。


「そうか扉間……やはりお前はオレの事が好きなんだな。かわいい奴め」


ハッハッハと柱間が豪快に笑う。


「な、オレは何も言ってない!」


少し声を荒らげて口を尖らせる扉間はやはりセンリから見てかわいい柱間の弟に見えた。まるで正反対な二人にセンリも笑いを漏らす。


『やっぱり弟って、かわいいよね』


まるで自分を弟の位置で見ているセンリに扉間は何故か腹が立った。


「いつまでもガキ扱いをするな!確かにお前はオレ達より何十年も多く生きてはいるが、オレはもうガキではない」


口をムッとしながら言う扉間。それでもセンリは何でもないようにふふふと笑っている。


「用が済んだのなら帰れ。大事な弟が待ってるんだろう」


怒ったように扉間が言うとセンリは素直に返事をした。


『はーい、そうするよ。柱間、ありがとうね』

「いや、礼には及ばん。何かあればいつでも言ってくれ。センリの相談なら何だって受けるぞ」


センリは柱間にもう一度丁寧に頭を下げた。マダラもイズナも家で待っているだろう。センリは二人に背を向けた。


『バイバイ、柱間。それから…かわいい扉間くん』


扉間が何か文句を言う前にセンリは悪戯っぽく笑って二人に手を振って火影室の戸を閉めた。

吐き出せなかった言葉はため息になり扉間の口から出た。センリがいなくなるといつも途端に静けさが戻ってくる。


「センリのような存在がいてイズナも幸せ者だな」


少しだけぬるくなってしまったお茶に柱間は口をつけた。センリの入れるお茶は何故だか飲むと心が温まった。


「ああやっていつも馬鹿にされたらたまったものではないがな」


柱間は扉間を見上げる。夕焼けが扉間を照らしているからか、その頬は心なしか赤く染まっている気がした。呆れたように扉間は言うが、その表情は柔らかいものだった。


「お前、センリの事を随分信用するようになったな。かなり素が出ているぞ」


扉間は少し驚いたように言う兄の顔を一瞬だけ見た。


「それは兄者もだろう」


少しだけ早くなった脈を気づかれないように扉間は皮肉っぽく返した。


「…センリと話すと心が明るくなる。見た目の割に子供っぽいところがあるが、伊達に何十年も生きているって訳でもないぞ。綺麗なのは見かけだけでは無い。センリは人の心をよく分かっている。人の心を掴む魅力がある。何故かセンリといると辛い事も忘れてしまう。不思議なことにな…」


そう言って柱間は少し笑った。扉間はセンリが出て行った戸を見つめた。

そこから姿を現すセンリはいつでも笑顔を浮かべていて、美しい見た目を気にすることもなく馬鹿らしい事を言う時がある。それでいて先程のように真剣な表情で物事を冷静に考えることが出来る。

兄が言っていることは扉間にも分かった。初めて会った人間だった。それ故にどうやって接していいか分からなくなる時もある。扉間はそれが何故かイライラした。感情を殺す事くらい普段なら容易い。戦場でもそうしてきた。しかしセンリを前にするとそんな理性や理論では計り知れないくらいの何か別のものが湧き上がってくる。


「それじゃ、早速明日にでもイズナを呼び出して伝えるか。マダラにはセンリから伝えるだろうが」


そう言って柱間は立ち上がった。


「あ、ああ…」


何やら心ここに在らずと言った扉間の姿に柱間は気づかれないように笑った。

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