- ナノ -


木ノ葉隠れ創設編

-扉間とイズナの最期-


ヒルゼン達が自分の元を去っていくのを確認した扉間は、隣に立つイズナに目を向けた。


「ここはオレが何とかする。イズナ、お前も…―」

「何だよ?今更木ノ葉に帰れなんて言わないよな?」


イズナは扉間の言葉を聞く前に強気に言い返した。イズナは囮を決めなければいけない時点で、木ノ葉に帰還するつもりは毛頭なかった。


「里を守るのが火影、そしてその火影を守るのが側近……ボクの役目だ」


イズナの瞳は強く扉間を見返していた。写輪眼ではないのに、圧倒される意志の強さだった。扉間がなんと言おうか少し迷っているのを察知したイズナが再び口を開いた。


「里をつくりたいと願ったのは姉さんと兄さんだ。そしてボクは二人の願いを叶えてあげたいとずっと思ってきた…。姉さんと兄さんが歩む道が、ボクの選ぶべき道でもあった……」


宿敵とも友とも戦友とも呼べる扉間を近くで見てきたイズナは、扉間が自分の中の何を心配しているのかくらいは、その目を見れば分かるようにはなっていた。

扉間は静かにイズナの言葉を聞いていた。怖いくらいに静かな空間だった。



「姉さんが側近を勧めた時……正直ボクはかなり迷っていた。それがボクの選ぶべき道かどうか、分からなかったからだ。今でもその気持ちは変わってはいない。でも……―――――」


「……」


マダラが言った事を肯定するわけではないが、それでもイズナの口調は、里が出来た当初に比べて幾分も柔らかくなったものだと、ふと扉間は考えていた。ただ目だけは変わらない、強く、毅然とした目だ。その瞳が扉間を捉えると、その中で闘志の光が燃え上がる。

イズナは強気に笑って見せた。


「今から選ぶ道の先に何があろうと、この先ボクは絶対に後悔はしないと、断言できる」


あれ程憎いと思っていた人間の隣は、共に過ごせば過ごす程、それほど居心地の悪い場所ではないと実感するばかりだった。
月日が過ぎる中で、イズナの中で今や扉間は、“自分を死に追いやり写輪眼を失くす要因になった人間”ではなく、“生死がかかった場面でも命を預け合える人間”とまで思えるようになっていたのだ。


イズナの言葉に、扉間は不思議なくらい満ち足りた気分になっていた。“最期かもしれない”と、分かっているからこそかけてくれた本音が嬉しくて、それと同時に心の底から不屈の闘志が湧き上がっていた。今ならば、何でも出来そうな気がしていた。


「お前がオレの側近で、本当に良かった」


扉間が穏やかに言うとイズナはほんの一瞬動揺した様に見えたがその後すぐにフン、と鼻で一瞥した。


「突然なんだよ、気持ち悪い。いよいよ老齢でおかしくなったのか?」

「気持ち悪いとは酷い言い方よ。それに今やお前の方がオレより老けているぞ」

「うるさいな。老けてるっていっても見た目は若いんだ。お前の場合は術で偽ってるだけだろう」


いつも通りの、ただの日常の会話だった。その言葉のかけ合いがなぜか安心した。


「ボクへの感謝の念なら、里についてからきっちりと聞いてやるよ」


イズナは額当ての布を後頭部でキツく結び直した。


「…敵は強い」


扉間が静かに言うとイズナは、不敵に笑った。その表情はイズナの兄の表情とよく似ていた。マダラが柱間と共闘している時の、自信に満ちた顔だ。


「お前らしくないな。怖じ気づいたか?」

「まさか。サル達が無事に木ノ葉に帰還するまで、何としても足止めをせねばならん」


扉間の言葉にイズナは満足そうにニヤリと笑った。気の強さは出会った時と変わりはなかったが、その方向性が違う事は扉間はもうとっくに分かっていた。


「ここから先へは、一人も行かせない」


側近の、強い言葉に扉間は、自分を奮い立たせた。そう、自分達は何としても守らなければならなかった。


「足でまといになるなよ、二代目火影」

「それはこちらの台詞だ」


隣に立つ存在が、心強かった。同じ方向を見て、同じもののために戦う―――――。それがこれ程までに心地よく、そして嬉しいものだということを、扉間とイズナはこの日初めてその身に刻んだ。

すぐそこまで迫ってきた追っ手を前にしても、二人の表情も心も、崩れる事は無かった。


ヒルゼン達が木ノ葉に無事にたどり着けるまで、朝が来ても二人は戦い続けていた。


木ノ葉の未来を、守る為に。

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