木ノ葉隠れ創設編
-第2次忍界大戦-
センリやマダラ、扉間が駆けつけた戦地では殆ど負戦になる事はなかったが、それでも大多数の忍にとって、戦場は地獄だった。
そして今回の大戦も、センリにとって悲しい知らせを届ける運び人となった。
浅葱とその妻が同時に亡くなったと聞かされた時、綱手もセンリも唇を噛み締めた。傷を負った忍を治癒している最中だったという。
「戦いが得意じゃないんだから無茶するなと言ったのに…!」
『綱手……』
「センリ……この事はまだ縄樹には伝えないで…」
里に持ち帰られた両親の額当てを見つめながら、綱手が嗚咽を堪えるように呟いた。
『うん…分かったよ』
縄樹はまだ幼い。もう少し整理がついてからでも良いだろうと、センリは綱手の意見に反対しなかった。
センリはその両手をそっと包み込む。綱手の手の震えが止まり、代わりにセンリの手の上に涙がこぼれ落ちた。
浅葱は幼い頃から人を傷付ける事を良いと思わない心優しい精神を持っていた。それ故に暗号解析班を選んだ事もセンリは知っていたし、だからこそ戦死した事が悔やまれた。
この所はあまり外に出ないミトは、肘掛椅子に深く座りながらその報告を聞き、静かに一筋の涙を流した。
「あの子は里の為に努力をした……柱間もきっとあの子の意志を見届けてくれたでしょう」
「おばあさま……」
止まりかけた涙がまた溢れそうになり、綱手は袖でぐい、と目元を拭った。
「綱手、あの二人はあなたと縄樹の事を、心から愛していました。それだけは忘れないで」
ミトのゆっくりとした言葉に、綱手はウンウンと何度も頷いた。
しかし、戦争が勃発して早々、木ノ葉が優勢なのは変わらず、事態は急速な展開を見せた。
穏健派で知られ、友好的な態度を見せていた二代目雷影が木ノ葉と同盟を結びたいと申し出てきたのだ。
今の戦争で激しい戦いを繰り広げているのは砂隠れ、木ノ葉隠れ、岩隠れだった。二代目雷影は戦争には積極的ではあったが、戦いを望んでいる訳ではなく、現時点で優勢な木ノ葉と同盟を結べば戦争も治まりがつくのではと考えていた。
扉間はその意見を呑み、会談を行う為に雲隠れへと向かう事になった。
扉間小隊にはヒルゼン、ダンゾウ、コハル、ホムラ、カガミ、トリフの六名が抜擢され、側近のイズナも共に雷の国に向かう。
「留守の間を頼む。なるべく早く帰還できるよう努力はするが、最低でも五日はかかる」
「分かっている。こちらは任せて条約を結ぶ事だけを考えろ」
木ノ葉の門の前で扉間とマダラが言葉を交わす。事務的な会話だったが、先日の事があってからほんの少しだけ声音が変わったのは、お互いに無意識の内だった。
二代目雷影が友好的な人物だということはマダラも分かっていたので、会談の行方はそこまで心配はしていなかった。
『大蛇丸くん達もまだ帰っては来られないけど、無事だって』
センリはヒルゼンと扉間に伝えると、ヒルゼンの顔が僅かに安心してシワを刻んだ。まだ三十代にも関わらず六十近い扉間よりも歳上に見えるヒルゼンは、その報告に深く頷いた。
扉間は術でその外見を保っているが、センリの力のせいでこちらもかなり若く見えるイズナが額当てを額に結んで準備をしていた。
「なるべく敵と遭遇しないルートで向うから。すぐに帰ってくるさ」
イズナが余裕そうな笑みを浮かべる。
『うん。帰ってきたら一緒にラーメン食べに行こうね。今度は……味噌がいいな!』
「いいね。それまでにお腹、空かせておいてよ。まあ、姉さんならその必要はないかもしれないけど」
『確かにね…むしろお腹空かせて行ったら二時間は食べ続けられそう…』
「二時間は勘弁して」
有り触れた、いつもの会話だった。マダラは口角を上げながら二人のやり取りを聞いていた。
「それでは、行ってくる」
「ああ」
『いってらっしゃい』
扉間の声にマダラとセンリが返し、イズナは二人に向かって笑顔を見せた。そして扉間の合図を機に全員の姿が消え、門の外へ走り去って行った事を理解する。
笑顔を少し消し、どこか心配そうなセンリの横顔を見てマダラはその頭に手を伸ばす。
「心配ない。あいつらなら」
センリはマダラを見上げる。その顔はまさに仲間を信用する表情そのもので、センリも『うん』と頷いた。
『(大丈夫)』
初夏の朝の空はこれから起きる事などまるで示唆する様子もなく、どこまでも青く澄み渡っていた。
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