木ノ葉隠れ創設編
-第2次忍界大戦-
マダラは戦場へ赴いては里に帰還するを繰り返し、扉間が里にいる時は情勢を詳しく伝えていた。
センリは分裂体と本体とを交互に里外に出しながら、前回同様防御結界を周囲一体に張り、何かの衝撃があればすぐに扉間に伝えに行っていた。
『地図で言うとここ……この大きな山がある辺り…ここに複数のチャクラが確認された。数は…大体十五から三十ってところだね。チャクラからして……恐らく岩隠れ』
センリは火影室の机に地図を広げ、結界のどの辺りに反応があったかを扉間に報告していた。
「なるほど、分かった。すぐに忍達を向かわせる。猿飛サスケの小隊が今里にいたな……あの班をそこへ行かせる」
センリは小さく頷いて、地図をしまう。
猿飛サスケは前回の戦争に引き続き参加している少ない忍の一人だ。サスケは隊長として部隊を率いていた。
『この前から戦いが続いてる所はどうする?ヒルゼン達がいる…川の国の所の。多分だけど、あそこはもう少し砂隠れの人達が増援を呼びそうだよ。手こずってるみたいだから』
「オレとイズナで向かう。それから近場にいたマダラにも連絡を取った」
扉間が率いていた、ヒルゼンらを含めた精鋭の小隊だが少し手を焼いている状況だった。だがその三人が行くなら恐らく問題はないだろう。
『私の本体も波の国近くにいるから…そっちに向かわせるようにするよ』
センリがそう言うと扉間は少しだけ驚いたように目を開いた。
「お前は分裂体の方か」
センリは扉間の言葉を聞いて同じように目を瞬かせたが、扉間の体調に気付いて少し困ったように微笑んだ。
『扉間くん、大丈夫?寝てないでしょ』
センリは扉間の目の下に出来た隈に気付いて問いかける。扉間は気にしていないようだったが、センリの分裂体に気付かずにいたとはよっぽど疲れが溜まっているのだろう。
「問題ない。これくらい…どうという事は無い。里の忍達が命を削っている中、睡眠不足如きでどうこう言っていられん」
扉間の言葉はしっかりしていたが、疲れが声に出たような口調だった。
『でも火影が眠さでやられてたらいけないよ。サスケくん達を送り出したら少し仮眠をとった方がいい。その後戦地に向かえば間に合うから。その間は私がみんなを見ておくから、ね?』
「……」
センリの言う事も一理あった。このままではいずれ限界を迎えてしまう。戦場では一寸たりとも気を抜く事は出来ない。故に休息は必要だった。
扉間は自分の顔を覗き込むセンリの心配そうな表情を見返した。
「…すまん」
扉間が小さく呟く。
『どうして謝るの?』
「いや、お前には昔から世話をかけてばかりだと思ってな」
扉間にしては珍しくしんみりした発言だったので、センリはその肩に手を乗せた。
『そんな事ないよ。扉間くんは良くやってくれてる。イズナの事もそうだし、里の事もそうだし…。戦争になっちゃったのは扉間くんのせいじゃない。扉間くんが里の為に頑張ってるのはみんな知ってるから』
いつものセンリのあたたかい言葉が耳に入り、突然眠気が襲ってきた。眠気に思考が遮断されぬように扉間は強く気を保った。
「…センリ、オレはお前に感謝している」
扉間の薄い赤の瞳がセンリの瞳と交差して、一瞬幻術に嵌められたような感覚になった。
「お前には何度も助けられている。オレがこうしてここにいられるのも、幾度となくお前が背を押してくれたからだ」
『扉間くん…』
センリは単純に扉間からのお礼の言葉が嬉しかったが、首を横に振った。
『でもそれは扉間くん自身の力だよ。扉間くんが自分で、自分の道を開いて歩いて来た。その結果が火影なんだから』
センリは誰がなんて言おうとそれは相手自身の力なのだと断言する。その頑固ともいえる言葉に扉間はふっと、笑った。
「…まだ戦国の世だった時……突然お前が千手の領地に“墜落”して来た事があったろう」
扉間がふと思い出したように言った。センリは記憶を辿るように天井に目線を上げ、そしてすぐに『あっ』と思い出した。
『あれね…もうすっごい鮮明に覚えてるよ。あの時扉間くんは……十代半ばくらいだったよね?』
センリの言葉に扉間は小さく頷いた。
「あの時のオレはまだ子どもだった。お前を信用出来ないだとか、馬鹿だのと…随分無礼な振る舞いをしていた記憶がある」
『ええっ、そうだったっけ?―――うーん、でも本当の事だしなあ』
まるで気にしていない様子のセンリを見て、やはり扉間は気が楽になっていた。その時自分が殺意を向けられていた事すら、センリは気にしていないだろう。
『でも、あの時の扉間くんは確かに屁理屈間だった気がするなあ。その時から比べると、扉間くんはずっとずっと変わった気がするよ!小さい頃の扉間くんもきちんとしてたけど、とっても良い変化の方ね!冷静なところは変わらないけど、柔らかくなったしとても優しいからね』
扉間は否定をしなかった。自分自身でも、その通りだと思えていたからだ。そしてこの心を変えたのがセンリだと言う事もまた確かな事実だと思っていた。
「……オレは、必ずこの里を守ってみせる。お前の為にも」
呟くような、それでいて確固たる思いが込められた言葉を聞いてセンリは僅かに驚いた。
「あ、いや……すまん。少し、眠気が」
しかし扉間も自分自身で言った言葉に動揺し、瞳を逸らして立ち上がった。
「サスケの班に指令を出してくる」
『仮眠も忘れないでね』
火影室を出て行く扉間の背に向かってセンリが言うと一度振り返り「ああ」と短く返事を返して消えて行った。
センリは少し不思議そうにそのドアを見つめていたが、窓の外に目を移す。
『私だって、守ってみせる…』
小さな声は部屋の空気に消えた。
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