木ノ葉隠れ創設編

-千年前の予言-


浅葱や綱手と同じように縄樹とも遊ぶ事のあるセンリだったが、縄樹は幼い頃の浅葱によく似ていた。黒髪を揺らしながら駆け寄ってくる姿など浅葱そのものだった。


渦の国を治めていたミトの父が死去し、ミトは相変わらず自宅でゆったりとしていたが、綱手の修業の話を聞いたり縄樹と触れ合ったりする事は楽しみであるようだった。

綱手も縄樹が成長するにつれて姉としてもしっかりとしてきて両親に代わってよく面倒を見ていた。


縄樹が成長する間に様々な事があった。

ヒルゼンが結婚をしたり、猪鹿蝶それぞれの当主のところに赤ん坊が産まれたり、アカデミーの増築が行われたりとセンリは色々な出来事に胸を踊らせていた。



『綱手、縄樹、よく見ててね。こうして……』


秋になれば里を流れる川でセンリは綱手や縄樹と共に魚釣りならぬ魚採りをしていた。

川の水の中に石を積み上げてそこに魚を追い込んで手で掴み取る。センリはこれが得意だった。


「がんばれー!センリ姉ちゃん!」

「しっ!縄樹、静かに」


騒ぐ縄樹を綱手は手で制して川で魚を掴みどる体勢になっているセンリを見た。

縄樹が固唾を飲んで見守っていると突然センリが動き、川の中に手を突っ込んだかと思うと次の瞬間その手には大きな鮭がバシャバシャと動き回っていた。


「やったー!スゲー!」

縄樹ははしゃいでセンリに駆け寄る。動き回る鮭を何とか押さえ込みながらセンリは裸足で川から這い上がる。


「うわ、大きい。家に持って帰ったらみんな喜ぶよ!」


綱手もセンリの腕の中で暴れる鮭を目を輝かせて見た。鱗がキラキラと輝いていて綺麗だった。


『扉間くんが喜ぶね!』


川魚が好物の扉間はさぞ喜ぶだろうと考えてセンリは鮭を押さえながら笑った。


「オレも!オレもやりたい!」

「あっ、ちょっと縄樹!」


綱手の制止の声も聞かずに縄樹はズボンを捲り上げて川に入っていった。流れもゆるく、辺りの川底までは浅いのでそれほど注意は必要ないが四歳になったばかりの縄樹が心配で綱手も慌てて川に飛び込んだ。


『えーっ、じゃあ私も!』


センリは石ころの上に鮭を置いて二人を追いかけてバシャバシャと水に入った。気温は暑いとまでは行かなかったが、川の温度は冷たく日に照らされた肌に気持ちが良かった。


「わっ、センリ!水がかかる!」

『でええぇい!もっとかけてやる!』

「じゃあオレもかける!」

「この…っ、やったなあ??」


びしょ濡れになった綱手が縄樹とセンリを睨み返して、大量の水をかけてきた。


『冷た!』

「くっ、こうなったらやり返す!」


黒髪から水を滴らせながら縄樹は水をかけ返し、三人は皆水でびしょ濡れだった。


『そりゃ!』

「う、わ!」


センリは綱手を水の中に引き倒し、やってやったという笑みを浮かべて声を上げた。


『あははは!もー、下着までびしょ濡れ!』


綱手は驚いたように目を見開いていたが徐々に濡れていく自分の服を感じてプッと吹き出して笑った。

びしょ濡れになりながら自分達と思い切りはしゃいで笑っているセンリの顔が、綱手は好きだった。濡れた顔など気にせずに無邪気に笑ってみせるセンリは、太陽の光さえ飾りにしてしまうほど輝いて見えた。


『浅葱に怒られそう!』


そう言うセンリだったがその表情は極めて明るく、まるで気にもしていなかった。


「こんなにおおきな鮭がいるんだから大丈夫だよ!」

縄樹は浅葱そっくりの顔つきで笑い、綱手も頷いた。



大きな鮭はその後綱手と共に家に持ち帰り、浅葱が帰ってくる前に風呂に入って服を乾かし、その日の夕食には大層立派な鮭料理が並んだ。

びしょ濡れになって帰ってきた三人を見てミトは可笑しそうに笑いを堪えていた。『いやあ、大きいの採ったよ!』と鮭を差し出すセンリと柱間の姿が重なって少しだけ昔の記憶が蘇った。
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