- ナノ -


木ノ葉隠れ創設編

-扉間とイズナ、大蛇の子-


火影が扉間くんに変わってから五年弱。

里内で変わった事や新しくなったシステムもたくさんあるけど、里ができた当初より安定してきたと思う。

カルマは自分からは全然外に出てこないけどそれは多分今の情勢には満足してるから、というか…。尾獣のみんながそれぞれの国に旅立ってから何年かたったけど、みんなが暴れて大変って報告は聞かないから安心もしてるんだと思う。何をしてるか気になる時はあるけど……今は無理かもしれないけどいずれみんなが一緒になる時が来るとも思う。

木ノ葉の里が変わっていくのと同じように、みんなの扱い方も変わると思う。力尽くでどうにも出来ない時でも、時間が何とかしてくれる事もこれまでも多々あったからね。

今出来る事は木ノ葉の里を守って大切にして、それで今度は他の里も同じように大事に……。


ああ、これじゃ扉間くんに「お得意の綺麗事か」って言われちゃうかな。いや、まあこう考えちゃうんだから仕方ないよね。何がなんでも諦めたら終わりだよね!



……うう。

目を瞑って玉ねぎ切ると泣かないで済むって聞いたから実行してみたけど全然ダメだ。色々違う事考えながら切ってみたりしたけどいつも通り目が痛くて涙が出てくる。

ちょっと目を開けて刻んだ玉ねぎを見てみたけどみじん切りにはまだもう少しだな。玉ねぎのみじん切り冷凍しておくと色々便利なんだけど、用意するまでがなあ。

涙が玉ねぎに落ちそうになるのを袖で拭う。
ああ、何で玉ねぎってこんなに人泣かせなの…。罪な野菜ですね…。ふうう、鼻の奥がつーんとして痛い。鼻を啜りながら頑張って涙を堪えていると背後で足音が聞こえた。


「大丈夫か?」


マダラはお風呂からあがったみたいでタオルを首に掛けて私の側に来る。すごく心配そうな顔で見てくるから私は大丈夫だって笑ってみせた。


「…玉葱か」

『そう。今日は中々強敵でね』


マダラはまな板の上に散乱している玉ねぎを見て言うと「貸せ」と私が持っている包丁を奪って、そのままトントンと続きをしてくれる。

私が玉ねぎを切ってる時はマダラはこうしていつも代わってくれる。別に悲しくて泣いているわけじゃないから、ちょっと申し訳ない。……それでマダラも涙を目に溜めながら不機嫌そうに切るから更に申し訳ないんだけど、それを見てると何だか笑っちゃう。



『ありがとう』


自分が泣くことになるのにわざわざ代わってくれるからかわいくて笑ってお礼を言うとマダラは首に掛けたタオルで目を拭った。涙を目に溜めてるマダラなんてこの時くらいしか見られないから新鮮だ。


「玉葱如きにお前が泣かされるのは不本意だからな」

『ふふ、何それ』


マダラは真剣に言うけどやっぱり何だかそれってかわいい。十歳くらいの時も同じ事言ってたけど、あの時もかわいかったなあ。ちっちゃいヒーローみたいでね。

マダラに気付かれないように笑って大きくなった背中をさすった。



『そうやって私の世話を焼くとこ、マダラは昔から変わらないね』


二つ目の玉ねぎに取り掛かったマダラに言う。


「お前は危なっかしいからな。見てられん」

『私マダラより年上なのに…』


自分が危なっかしいと思った事ないんだけどなあ。ちょっと納得いかなくて言い返してみるとマダラに鼻で笑われる。ひどい…!


『ん…でもマダラ、ずっと私といて飽きないの?私の世話焼くのも大変でしょ』


ふと不思議に思って聞いてみるとマダラはこっちを向いて動きを止めた。


「何故だろうな。全く飽きん」

マダラの方が不思議そうに眉を寄せてるから笑っちゃった。ほんと、不思議だね。子どもの頃から数えると…三十年以上一緒にいるのに。


『ふふ、何でだろうね』


私も飽きないけど、何でだろ。私が笑ってるとマダラは真剣な表情になって一度包丁を置いた。黒い瞳が涙でキラキラしてる。


「俺は飽きるどころかどんなにお前と生きても、どんなに触れてもまだまだ足りないくらいだ」


マダラは結構こうして言葉を直球でぶつけてくるから心臓に悪い。心臓に悪いというより、すごく照れる。だって、すごく真剣な顔するから…。でもすごく嬉しくて自然と顔がにやける。


『それならちょうどいいね。これから何十年も一緒にいるんだから』


そう言うとマダラの顔がふっと緩んで表情が柔らかくなった。いつもの、やさしい言葉をかけてくれる時のマダラの顔だ。 私も微笑みを返すと、包丁を握っていた手が首の後ろに回っておでこにちゅーされた。お風呂に入ったからマダラの唇はすごくあったかい。


「お前の事が好き過ぎて離れたくない」


かわいいなあ。子どもの時のわがままを言う時みたいな口調につい口に出しそうになって止めた。マダラ、かわいいって言うと時々すごく怒るからなあ…。

かわいいは口には出さなかった代わりに私も頷いた。


『私も。何年も一緒にいるけど今でもマダラにドキドキするし、だいすきがどんどん大きくなる』


…変だったかな?マダラはちょっと驚いたように私を見たけどすぐに笑顔になった。


「お前は本当に、かわいい奴だな」

『ええーっ、マダラの方がかわ…―』


かわいいって言おうとして寸でで言葉を止めた。…危ない危ない。全く、やっぱり私は危なっかし…―。


「………俺の方が?」


えっ…まずい。
何だかマダラの様子がおかしい!

この笑顔の後は決まって恥ずかしい事をされるか、嫌な事をされるかだ。いや確かに拷問とかじゃないんだけど、


『いや、えっとね、その、』


いい言い訳が思い浮かばなくておろおろしてるとマダラが近付いてくるので思わず後ずさる。怖い!なんか不吉なオーラが出てるよ!


「俺が?何だ?言ってみろ」

『あっ、いや…―』


こういう時は逃げるが勝ち。
私は気付かれないようにチャクラを練ってその場から脱出しようとした、けど。


「…夕食の後、覚えていろ」


ひいい!よろしくない!覚えていたくない!
マダラの不吉な笑顔に玉ねぎを切ってないのに涙が出そうになった。



毎日退屈しなくていいとはよく言ったものだけど、退屈しなさすぎるのも……。ずっとマダラといて飽きないのはこういう意地悪を仕掛けてくるからってのもあるんじゃ……。

私が引きつって笑うとマダラも楽しそうに笑った。…笑った、で合ってるよね?

んん、でも何をされても許しちゃうんだろうなあ、結局…。私、無念…。
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