木ノ葉隠れ創設編

-扉間とイズナ、大蛇の子-


火影室の戸をノックして開ければそこにはいつものように扉間とイズナの姿があった。最初こそ違和感のあった情景も、今では日常になりつつあった。


『おはよう。これ、警務部隊の人から預かってきた書類……今月の里内での事件を纏めてあるやつね』


センリはどこからとも無く巻物を取り出し扉間に渡した。


「ああ、すまんな」


扉間は巻物を受け取ったがその視線はセンリの前に突き出た布にあった。


「姉さん、いつの間に産んだんだ?」

先程と同じ言葉をイズナが掛けてきてセンリは悪戯っぽく笑う。


『実はね…ついさっき産んできたんだよね!』

「そうか。それはおめでたい」


センリの冗談ににこやかにイズナは返す。扉間もそれが冗談だと分かっていたがやはり側近はセンリの前だと別人だな、等とふと考えていた。

イズナは手に持っていた分厚い本を閉じてスリングの中を覗き込む。


「どこの子?」

『ヒバナちゃんの子どもだよ』

「…ああ、うちはエニシんとこの」


母親の名前を聞けばイズナもすぐに分かったようだった。


『ヒバナちゃんが熱出しちゃってね。大変だし移るとまずいから預かってきたの。夜になればエニシくんも帰ってくると思うからさ』

「なるほど。エニシは確か警務部隊の日中勤務だったし夕方になれば帰ってくるだろうね」


父親は警務部隊に所属していたが夜の巡回はしていないので日が沈む頃になれば帰ってくる。

イズナは赤ん坊の頬に人差し指をそっと近付ける。壊れ物を触るようにふにふにと動かすと赤ん坊はイヤイヤをするように顔を背けた。


「父親に似てるな。将来はいかつくなりそう」

『エニシくんに似てるよね!赤ちゃんなのに凛々しい』


赤ん坊にしてはキリッとした顔立ちを見て笑いながらイズナとセンリが言った。

赤ん坊の顔で遊んでいたイズナだったが泣き出しそうになりさすがに止めにした。


「しかし、お前は何故だか赤ん坊が似合うな」


ふと様子を見ていた扉間が言うのでセンリは『そうかな?』と首を傾げた。

しかしイズナもそれは昔から思っていた事だった。普段から子ども達と過ごしている時間が多いセンリだったが、赤ん坊を抱いている時の目など母親そのものだった。


『子どもは可愛いからね。二人だって小さい時すごい可愛かったし』


センリが扉間とイズナとを交互に見ると二人が横目で互いを観察した。


「冗談よせよ。扉間は昔から目付きも悪かったしかわいさの欠片もなかった」

「随分な物言いだな。子どもらしさなどあの時代で求める事でもないだろう」


睨みつけながら言い放つイズナだったが言葉には刺々しさが無く、それを分かっている扉間は軽くあしらうように返した。


『ふふふ……まあ、今でもかわいいけどね』


センリがやり取りを見て口に手を当てて笑い出すと二人がじっと見てくる。


「「子ども扱いをするな」」


まるで事前に息を合わせたかのように重なる言葉を聞いてイズナと扉間はお互いをチラッと見る。それが可笑しくてセンリは笑い声を上げた。


『そんなに言わなくても分かってる。ちゃんと大人扱いしてるよ』

楽しそうに笑うセンリに気付いたのか赤ん坊がキャッキャと甲高い声を出した。


『うんうん、面白いね〜。フガクくんも分かるのかな〜?』


赤ん坊にも笑われたような気分になりイズナはむすっとしながらため息を吐いた。


『ふふふ。じゃあ私はフガクくんとちょっと散歩に行ってくるね。何かあったら呼んでね』


マダラは今ヒルゼン達と里外の任務についているので何か相談事などがあればセンリを呼ぶしかないと扉間は分かっていたが、いとおしそうに赤ん坊を抱いて出て行くセンリを見たら何と無く今日は呼び付けるのは無粋に感じた。


「…何、笑ってるんだよ」


センリが出て行った戸を見つめて口角を上げている扉間を横から見てイズナが小さく言った。


「いや…センリの愛は人をいい方向に育てるな、と思ってな」


イズナは扉間の横顔を見つめたが、それがただの本音に聞こえてふっと鼻で笑った。


「姉さんが千手にいたらお前の兄弟も死ななかったかもな」

扉間はその嫌味を聞いてイズナを見ずに目を瞑って小さく微笑んだ。


「……そうかもしれんな」


小さく言った声が悲しげにも聞こえて、それが癪に触った。


「しかし、今となってはこの里の人々全てが守るべき家族だ。“オレ達”が守らなければならん」


守られる存在では無く、守る存在に。
過去の傷跡は未来への糧に。

もうセンリに守られてばかりの子どもではない。センリが望んだ里。里を守る事はセンリを守る事にも繋がる。センリは柱間を心から応援していた。それならばその兄の意志を継いでこの里に尽くしていく。


イズナはその言葉に込められた意味が少しだけ分かって、扉間に気付かれないように微笑んだ。
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