木ノ葉隠れ創設編

-扉間とイズナ、大蛇の子-


毎日何かしら小さな問題や出来事は起こっていたが、それが必ずしも悪い事ばかりではない。

里には外部から人が引っ越してくるという事も多々あったが、それよりも里内で新しい赤ん坊が誕生し、人口が増えていく割合の方が幾らか多かった。


付き合いが深い忍達の赤ん坊を抱かせてもらえる事はセンリにとって楽しみの一つでもあった。
その中でもやはり昔から世話になっているうちは一族は特別嬉しい。元々それなりに人数が多くいたうちは一族では月に一度くらいは新しい命が誕生していた。

元より小さな子どもが好きなセンリは里の乳幼児も可愛がり、子ども達もまたセンリに懐いていた。


―――――――――

商店街を歩くセンリの肩にはスリングが掛けられ、その布の中には生後数ヶ月の赤ん坊がいた。
うちは一族のよく知る両親の子どもでいつもなら日中は大体母親が面倒を見ているのだが、高熱を出してしまい寝込んでしまったので代わりにセンリが面倒を見ている最中だった。

忍であれば体調を崩しても一般的な人間よりも早く治る事が多いので安静にしてきっちり眠っていれば一日で完治するだろうが、幼い赤ん坊がいるならば話は別だ。

丁度その母親に用があったので自宅を訪れた時には、床に這いつくばりながら赤ん坊の襁褓を替えているところで、さすがに辛いだろうとセンリが預かってきたのだ。母親もセンリならば、と安心したようで三十九度近い熱だったが、その後死んだように眠ってしまった。



『お外気持ちいいね〜』

胸の前を覗き込んでセンリが話し掛けると外の光を浴びて気持ちよさげに目を細めていた赤ん坊は小さな手をセンリの顔の方に伸ばす。センリはにっこりしながらその手をそっと掴んだ。

ハゴロモやアシュラ達の事があったので赤ん坊の扱いは慣れたものだったが、やはりこの可愛さはいつも新鮮に感じる。


「やあ、センリさん。おや…何だい、いつの間に赤ん坊なんて産んだんだい?」


里が出来た当初から八百屋を営んでいるおばさんに引き止められてセンリは振り返った。


『私の子じゃないよ。お母さんが熱出しちゃって代わりにちょっとだけ面倒見てるの』

「なんだあ、そうだったのかい。それは大変だ。どれ……ほれ、生姜なら余ってるから持ってきなよ。今の時期生姜汁でも飲ませときゃすぐ治るさ」


八百屋のおばさんは売り場に並んでいる小さめの生姜を二、三個袋に入れてセンリに渡した。


『えっ、いいの?』

センリがきょとんとしながら問い掛けるとおばさんは「いいのいいの!」と手を振りながら豪快に笑った。


『ありがとう!ちょうど喉も痛いって言ってたから助かる!こんな美味しい生姜があればすぐ治るよ』


こうして商店街の人々がオマケをしてくれる事は珍しくなかったがそれはセンリの人柄と日頃の行いの賜物でもあった。

夕方以降になれば体調も少しは治まるだろうし、父親も仕事から帰ってくるのでそうしたら生姜汁を作って渡してあげようと考えながらセンリは火影邸へ向かって歩いていた。


『ちょっと火影様に渡すものがあるから寄り道してもいい?』


センリがまだ言葉の分からない赤ん坊に問い掛ければまるで返事をするように「あう、あー」とたどたどしい言葉を発した。


『よしよし、いい子だねえ』


産まれて四ヶ月余りだというのに物事が分かっているような赤ん坊の様子に頬を綻ばせながらセンリはその少ない髪の毛を撫でた。
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