- ナノ -


木ノ葉隠れ創設編

-扉間とイズナ、大蛇の子-


警務部隊が里で活躍するようになって少し経つと綱手が六歳になりアカデミーに入学する事になった。幼児期の気の強さは消える事なく更に我が強くなったが、センリに対する態度はむしろ少しずつ丁寧になっていた。

浅葱やミト辺りが色々と教え込んでいるのだろうが、センリからしたら立場を気にせず接してほしいくらいだ。忍の子どもの成長は早く感じるが、綱手も例外ではなかった。


――――――――――――
生憎の雨のじめじめした天候の日、センリは綱手と共にヤヨイの甘味処に来ていた。

そこでセンリは綱手がアカデミーをもう卒業するという話を聞き、大いに驚いた。あと数週間すれば綱手の誕生日だが、それならば綱手は六歳でアカデミーを卒業した、という事になるのだろう。



『つ、ついこの間入学したばっかりなのに?』

「うん。先生ももう下忍になって任務にあたった方がいいだろうって」


綱手はこし餡団子をモグモグと頬張りながら説明する。
綱手が入学してからまだ三ヶ月半しか経っていない。組手ごっこを卒業し、たまにだが本気の組手ごっこに付き合うようになったセンリは綱手の実力についてはよく知っていたが、まさか六歳にして下忍になるとは思ってもみなかった。


『そうなんだ……すごいね、綱手!今度お祝いしないと』


センリが手を胸の前で合わせながら嬉しそうに言うと綱手も少し得意げに微笑んだ。


「あたしは初代火影の孫だもん!これくらい余裕!」


今度柱間に報告をしに行こうと考えながらセンリは自分で頼んだみたらし団子に手をつけた。


「でもスリーマンセルで上忍の先生がつくのは十二歳にならないとダメだから、それまでは一人で修業したり任務をこなしたりしないといけないんだって」

『そっかそっか。そういえばそういうシステムだったね。じゃあ私も時間がある時は綱手の修業に付き合おうかな』


そう言うと途端に綱手の表情が綻んだ。


「本当に?センリはアカデミーの最上級生の奴よりずっと強いから、修業するの楽しみ!」


綱手は突っかかってきた上級生の男の子をコテンパンにしたと浅葱から聞いていた。その様子が鮮明に想像出来てセンリはふふふと笑った。


『あんまり乱暴したらダメだよ』

「乱暴じゃないよ!どっちの実力が上か教えてやっただけ!」


綱手の気の強さには浅葱も手を焼いていたが、センリにとってはそれが微笑ましくも見えてくる。


「同級生にもムカつくスケベ野郎がいてね。そいつもぶっ飛ばしてやったんだ!」

『スケベ野郎かあ。それならぶっ飛ばされてもちょっとしょうがないかもしれないね』

「でしょ?それからこの間はね…――」


両親共に忍として働いている為綱手にとってはこうしてセンリと共にお茶会をしたり遊んだりするのが昔から大事な時間だった。

センリもそこまで暇という訳では無かったが、相談役としての仕事はマダラに多く任せている節があったので目が回る程忙しい訳でもない。その為時間があればこうして綱手に付き合ってやっていた。綱手も口に出さないだけで寂しいという感情も少なからずある。

綱手はもう柱間と過ごした記憶が少ししか思い出せないくらいになっていたが、それでもセンリといると何だか懐かしい気持ちになっていた。

物心ついた頃からセンリと遊んでいたからか、祖父とセンリが少し似ているからかは分からなかったが、それは綱手にとって心の休まる時間でもあった。



「―――でね、あたしが「それなら組手で決めてやる!」って言ったらさ…―――」


四本目になるみたらし団子を頬張りながら綱手が話していると、茶屋の暖簾を潜ってマダラが現れた。



「こんな所にいたのか」

「げっ、」


マダラの姿を見て綱手は分かりやすく顔をしかめた。綱手はマダラの鋭い瞳がどうやら少々苦手のようだった。露骨に顔を引き攣らせる綱手を見下ろしてマダラも眉を寄せた。



「またお前は出歩いているのか、綱手。随分と余裕があるようだな。アカデミーを卒業したからと言ってあまり怠けてばかりいると、すぐに他の人間に追い抜かれるぞ」

「…はーい、分かってます」


叱られた事で不貞腐れたように綱手は唇を尖らせたが、マダラに言い返す事はなかった。マダラなりの愛情の表現だと分かっていたが、子ども相手にも容赦のない様子を見てセンリは、まあまあと制した。特に小さな子どもにはマダラの気遣いは伝わりにくかった。



『綱手はこの後私と一緒に勉強会するから大丈夫だよ』

「そうそう、その通りですマダラさま」


本当にやる気があるのか分からない綱手の顔を見てマダラはまた何か文句を言いかけたが、ため息を吐く事でお咎め無しとした。



「まあいい……。で、センリ、お前は本体か?」

『ううん、分裂体だよ』


分裂体のセンリが答える。マダラの写輪眼でも分裂体と本体とを見分ける事は出来ないので直接確認する他なかった。分身体と違い、センリの分裂体は物を食べる事が出来るので、一見すると区別がつかない。

綱手は驚いたようにセンリの分裂体を見ていたが、マダラはそれ程表情を変えなかった。



「本体はどこにいる?」

『火の国内の孤児院にいるよ。一人新しく入った子がいるから、その子の生活物資を届けてるんだ。それだけだから今日中には帰ってくるよ。何か急ぎの用事でもあった?』

「いや、特別急いでいる訳ではない。それなら今日帰ってきた後に話をしに行こう」

『そっか。夕方には帰ってくると思うから』


そう言うとマダラは綱手に一睨み効かせてからその場を去った。マダラは分裂体とセンリは別の人間と思っているらしく、分裂体には割とあっさりとした対応をするので、綱手の目には冷たく映ったのかもしれない。



「はーあ、マダラさまって何であんなに怖いんだろ。センリは優しいのに」


マダラがいなくなった途端伸びをして机に突っ伏す綱手を見てセンリはクスクス笑った。



『怖く見えるけど、ホントは怖くないんだよ』

「えーっ、そんな事ないよ。大おじさまも怖い時あるけど、マダラさまはいつも怖い」


火影である扉間も、柱間とは違いやたらに綱手を甘やかす事はなかったが、綱手にとってはマダラの方がワンランク上らしい。

綱手からすると厄介な存在な事この上ないが、それでも贔屓をせずに厳しい言葉をぶつける存在も、たまには必要なのではないかとも思えた。





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