木ノ葉隠れ創設編
-二代目火影-
『ダンゾウくんは、何か悩んでいるの?』
予想外の返答にダンゾウは訳が分からず、逸らしていた目を再び微笑むセンリへと向ける。
「別に悩み事などありません」
『そう?何か思い詰めてるような顔してたけど、無理しないでね』
穏やかな口調にペースを崩されたダンゾウはそれが少し気に入らなかった。昔からセンリといると自分の感情が乱れ、自分らしくない行動をとってしまい、それが何故か嫌だった。
「…柱間様を殺した忍達が憎くないのですか」
自分の感情にも目の前のセンリの笑みにも苛立ちを覚えてダンゾウの問い掛ける声が鋭くなった。しかしセンリはそれでもまだやさしげな表情を崩す事はなかった。
宝石のように輝く金色の瞳が一瞬細められ、そして空を見上げた。
『憎くないよ』
空を見上げた横顔が綺麗すぎてダンゾウは訳が分からなくなった。
「何故ですか。柱間様は無駄な犠牲を払って殺されたのですよ。相手の勝手な…自己中心的な考えの元、身代わりになったのですよ。それにセンリ様のこれまで戦死したご友人も、無駄な戦いのせいで…」
ダンゾウの眉は潜められ、深いシワが瞳の間に刻まれていたがセンリは空を見ていた目をその顔に移す。
『それでも…みんなが私の中から消える事はないから。例え誰かに殺されたとしても、それが無意味だった事なんてない。柱間は里を守って亡くなった。それなら私は柱間の意志をちゃんと受け取りたい。柱間は復讐なんて望んでいないし、私が暗い顔で生きていたら成仏出来ないかもしれないじゃない?』
まるで負の感情など寄せ付けない程の美しく澄んだ笑顔にダンゾウの黒い瞳が揺れた。
『私が忘れない限り、みんなとの思い出はいつだって側にある。みんな、ずっとここにいるからね』
そう言ってセンリは自分の左胸を指差した。
嘘の無い驚くくらい綺麗な微笑みがやはり癪に障ってダンゾウは再び目線を下げた。
「……オレは、センリ様のようにはなれません」
何とか押し出すようにしてつぶやいた声にもセンリはしっかりと反応する。
『別に私みたいになる必要はないよ。ダンゾウくんは、ダンゾウくんだから。他の誰かの真似をする必要はない』
センリの口からはいつだって人を蔑むような言葉は出て来ない。自分を一人の人間として認めた上で修業にも付き合って的確なアドバイスをくれる。それなのにダンゾウはその優しい言葉を聞くたびに胸が締め付けられて、苛々した。
「……自己犠牲は忍の本分です。オレはオレの意志を貫き、忍として全うしてみせます」
センリに子ども扱いをされているような気がしてダンゾウは厳しく言い放った。
先程言っている事と矛盾しているような言葉に気付いてセンリはそっと語りかけた。
『ダンゾウくん』
凛とした声が耳に響きダンゾウは瞳だけを隣に移す。やはりセンリは微笑んでいた。
『ダンゾウくんが忍としてきちんと任務について、最後までちゃんとやり抜いている事は知ってる。でも、私達は忍である前に、一人の人間でもある。心を持った、人間でもあるんだよ』
どこかずれたようなダンゾウの考えにセンリは静かに語りかけた。自己犠牲、という言葉を言う時のダンゾウの表情は寂しげだった。
『それを忘れないで』
センリの瞳には微かに驚いた瞳をするダンゾウが映っていた。
「それは……」
どういう意味なのですか。
そう聞こうとしてダンゾウは口を噤んだ。
センリの考えは眩し過ぎた。優しすぎた。
このままセンリと話していると自分の意志が揺らぎそうになってしまう。
センリの言葉はダンゾウにとって残酷なものだった。
「(オレは、オレのやり方で…)」
霊園で慈しむように目を細めているセンリを後ろからそっと見つめる師の切なそうな表情を何故か思い出し、ダンゾウは拳を握った。
眩し過ぎる日の光は時に植物を枯れさせる。
自分はその光に照らされない薄暗い場所で生きて行く。
ダンゾウはセンリから目を逸らし、慰霊塔の下に置いた花を見つめた。自分の影に覆われた花は心なしか灰色にくすんで見えた。
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