木ノ葉隠れ創設編
-命を懸けた火影、残された側近-
「…柱間らしい、死に方だわ」
静かになった空間で、夫の顔を見つめながらミトが呟いた。言いたいことはたくさんあったが今は、里の民の為に命を懸けた夫を、心から追悼したかった。
「本当にな…」
無意識のうちに返事をするような囁き声で、扉間が言った。
浅葱は瞳の奥にその最期の姿を焼き付けるように、父の遺体を見つめていた。怖いくらい綺麗だった。外傷なんてどこにもなくて、まるで眠っているだけのように見えるのに、その身体はピクリとも動かない。
だが、浅葱は不思議と悲壮感だけに包まれることはなかった。父は死んだが、浅葱はその行動を立派だと思っていた。並の人間に出来ることではない。
『柱間…』
センリはもう動く事のない柱間の頬に触れた。冷たく、彫刻のようだった。
センリの瞳からは涙が零れ落ちていた。
センリの前に立っていた扉間には分かった。自分が悲しんでいるところを、マダラに見られまいとしていた事。涙を流しながらそれを堪えて落ち着いてマダラに語り掛けていた事。
『柱間、お疲れ様。今まで、よく頑張ったね』
まるで柱間が生きているかのように静かに話しかけるセンリの声を聞いて浅葱が目に涙を浮かべていた。
『あなたが遺したものは、ちゃんと繋がっているからね。安心して眠ってね』
柄にもなく、扉間の目頭が熱くなった。
センリの労りの言葉を聞いて、兄が死んだという事実が今更頭の奥に響いてきた。
『ありがとう』
センリは柱間の胸の前に手をかざした。
すぐその手のひらの下に美しい白蘭が現れた。
『ありがとう…』
心からのセンリの言葉だった。
里を守ってくれてありがとう。皆を守ってくれてありがとう。諦めないでいてくれてありがとう。いつも自分を信じてくれてありがとう。悩みを聞いてくれありがとう。マダラと友達になってくれてありがとう。
沢山の感謝の気持ちが溢れて止まらなかった。
自分の命と引き換えに里を守った柱間の勇姿はセンリの心に深く刻まれていた。
動かなくなった柱間の顔にセンリの涙が零れ落ちると、そんな筈はないのに、その顔が一瞬笑ったように見えた。
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