木ノ葉隠れ創設編
-命を懸けた火影、残された側近-
柱間が木ノ葉から少し離れた森林に辿り着くと、体から血を流した猿飛サスケの姿があった。その後ろに隊の忍が三名いて、柱間に気付くと微かに驚いた表情を浮かべた。
「まさか本当に火影がやってくるとはな」
サスケの視線の先にはおそらく敵とみられる忍の姿。一人二人ではなく二十人以上はいると思われた。サスケはよくこれを相手に仲間を守りながら戦ったものだと柱間は感心したが、どうもそんな状況ではないようだった。
「お前達は…滝隠れか」
滝の紋印は何年か前にも見た事があった。自分を狙って攻撃してきた忍もこの里の忍だった。
「一体何故我らを攻撃するのだ」
柱間のまるで動じていない様子にリーダーらしき男が進み出て威嚇するように睨み付けた。
「柱間様、気を付けて下さい!…―」
「何故か、だと?」
サスケの忠告を遮って男が大声を上げた。忍達の大半はサスケよりも強くは無いように見えた。しかしリーダー格の男を含め約数名からは驚く程の殺気と強いチャクラが滲み出ていた。
柱間は木ノ葉の忍を守るように前に立つ。
「そんな事は分かっているはずだろう。お前達木ノ葉が我ら滝隠れを襲撃しようとしているという情報はもうすでに知っている」
「何だと?」
全く予期しなかった言葉に柱間は眉を寄せる。しかし相手の男はいかにも怒りといった形相だ。
「すっとぼけてんじゃねぇぞ!こっちは全部知ってんだ」
とぼけているわけではなく単純に男の言っている意味が分からないだけだったが、男が声を荒らげたので柱間は手を上げて制した。
「何を言っている!オレ達木ノ葉は滝隠れに攻撃するつもりなどない」
誤解を解けば事態は丸く収まると柱間は思っていたが、男の意思は固く、それを裏付ける何か決定的なものがあっただろう事は見て取れた。
「ここまで来て知らん振りか?」
「本当にそんなつもりは無い!どこからそんな噂が出たのかは知らぬが、オレ達は…」
「嘘をつくな!!」
男が口調を荒げ、口から唾が飛んだ。
男の後ろにいる忍達は今にでも襲い掛かってきそうな勢いだった。
これ以上話しても埒が明かないと柱間は力ずくで止めようと考えた。
「今戦おうなんざ考えない事だな」
その言葉に柱間の体がピクリと反応する。
「忍の神と言われている火影相手にオレ達が何も考えずにただ戦おうと考えていると思ってるのか?」
「……どういう事ぞ」
僅かに焦りを含んだ柱間の声音に男はニヤリと笑った。
「“女神”と“死神”は今木ノ葉にいない……まあそうさせたのはオレ達だが……そして火影もまんまとここにおびき寄せられた。これは仕組まれたチャンスだ」
今まで妙な動きを見せていたのはこの滝隠れの忍達で間違いはないようだった。
「…一体何をするつもりだ?」
何か良くない予感がして柱間は静かに問い掛ける。すると男は手を広げて大袈裟に身振り手振りをした。
「今木ノ葉にオレ達の仲間が何人も向かっている。すぐにでも戦闘になる!そうなったら……お前だって分かるだろ?」
まさかこの他にも忍達が木ノ葉に向かっているのかと考え、柱間は里に残してきた弟に何とかして伝えたかったが今迂闊に動くのは賢明ではなかった。
「…また戦争が始まるだろうな!オレ達の戦いを歯切りに、また暴れ出す忍達がいるだろう」
「オレ達と戦うのが目的ではなく、戦争を起こすのが目的だと?」
男はニヤける顔を抑えきれないように笑った。
「そうだ!お前達木ノ葉を潰す為にな!今頃木ノ葉に攻撃を仕掛けているかもなあ!」
柱間は男を睨むように見た。ここへ来るまで忍の気配は無かったが確かに今戦闘が起きればまた戦争になるという可能性は間違いではなかった。
今やっと前回の戦争から立ち直ったのだ。
そんな事をさせる訳にはいかないという強い思いが柱間の胸にはあった。
「ここでオレ達と戦うか、放棄して里に戻るか。どうするんだ?」
「柱間様!里に戻って下さい!ここは私達が…―」
サスケが後ろから言うが、柱間は頷かなかった。
「もう一つ選択肢はある」
その様子を見て男が鋭く言った。
「火影、お前が今ここで死ねば木ノ葉に向かっている忍達を止めてやる」
「何だと!?」
男の言葉に反応したのは木ノ葉の忍だった。前に飛び出しそうになるのを柱間は制した。
「ここでオレと戦っても、木ノ葉に戻っても結局戦争は起こるだろうな」
畳み掛けるように言う男を見てサスケが唇を強く噛み締める。
柱間が今男達を倒しても木ノ葉に被害が出る。しかし里へ戻ったとしてもまた戦争が始まってしまう。
一体この状態をどう切り抜けるのがいいのかサスケは頭で懸命に考えていたが答えが出る前に柱間が口を開いた。
「…分かった」
「柱間様!」
まさかという顔をしてサスケが口を挟む。しかし柱間は凛とした表情でただ男を見つめていた。
「オレが死ねば、戦闘を起こさないと誓ってくれるなら、そうしよう」
「何を言っているのですか!駄目です!」
サスケの声を聞かずにいる柱間の真剣な表情を見て男は笑った。
「それは約束しよう。本当にお前が死ぬというならな」
その言葉を聞くと柱間は微かに笑みを浮かべた。
「柱間様…!」
「サスケ、動くな」
振り返る柱間の表情とその威圧感に、踏み出そうとしていたサスケの足が止まった。
初めてサスケが感じた恐怖だった。
火影が殺されるという恐怖なのか、火影に殺されるという恐怖なのかは分からなかったが、全身が震え上がる程の恐怖だった。
「里を守るためならオレの命など安いものぞ」
柱間の声が耳の奥に響いたが、体が動かなかった。
「絶対に攻撃はしないと誓ってくれ」
「もちろんだ。お前の命と引き換えにな!最後の言葉くらい聞いてやろうか?」
不条理な相手の要求を呑もうとしている里長が信じられなかった。
男の勝ち誇ったような表情にも、柱間は声を変えることはなかった。
「オレは……大切な仲間と、家族と、親友に出会えた。それで十分ぞ。守りたい者がいる里の為に死ねるなら何も思い残す事などない」
それはサスケが聞いた火影の、最後の声だった。
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