マダラに抱き抱えられている浮遊感を名前は少し不思議に感じながらも次に背中に感じたのは、いつものベッドの感触だった。

月明かりと仄かな灯りが部屋を照らす。満月に近い大きな月の光が窓から差し込み、夜でもマダラの姿がはっきりと見える。しかし夜は静かなもので、二人の耳には微かに虫の鳴く声が聞こえてくるのみだ。

ベッドの上に横たえられた名前は、手を付いて上半身を起こした。同じくベッドに座ったマダラの目は少し細められ、それをじっと見上げていると薄い唇が額に降りてきた。これから何をするのかくらいいくら名前でも想像出来た。

しかしする事は分かれど、経験が無い名前はその内容まで想像する事は出来ない。まるで戦場で敵から姿を隠している時のように全身に力が入った。


「緊張、してるのか」


名前の怖張りを感じ、その手を握り、近い距離でマダラが囁く。
覚悟はしたものの、やはり怖い。名前は目を泳がせながら小さく頷いた。だが、これから今まで見た事の無い名前の姿が見られるかと思うとマダラの心は昂っているのも事実だった。


『でも、ちゃんと向き合うって決めたから……し、色情とも…』


次にマダラを見上げた名前の目には決意のようなものが見え隠れしたが、なぜかその台詞が名前の表情とも口調とも合わなかった。

色情。
色事に疎い名前からそんな言葉が出てくるとは思わなかったが、その時マダラはその違和感には気付かなかった。もっと名前に触れたいという感情だけが独り歩きしていた。

マダラはそれを抑え込んで、出来るだけ優しく名前の体を右手で支えてベッドの上に倒した。

戦争中だった、少し前までに夜這いをかけた名前も知らない女達であれば、ここで何の躊躇もなく最低限の服を退かし早急に欲望の開放だけをそのまま行動に移していたが、しかし今、自分の腕の中で、自分の下にいるのは愛しい名前だ。何年もこうしたいと望んでいた。どうやったって乱暴になど出来なかった。名前が安心するやり方を優先したかった。


「…名前、目、閉じろ。出来るだけ、優しくするが…怖くなったら言え」


マダラが言えばいつもより幾分か優しいこの声音に名前は素直にその瞼を下ろす。微かに眉を寄せ、困った様な表情を浮かべる名前に少しだけ微笑み、再度ふるりと膨らんだ控えめな唇に自分のそれを重ね合わせる。

マダラの唇が当たると、ベッドの上に移動しただけだというのに一気に雰囲気も何もが変わったような気がして変に緊張してしまった名前は無意識に自分の唇を固く閉じる。何とも言えないうぶな反応に本当に、耐性がないのかと改めてマダラは実感する。


名前の固く閉ざした緊張の心を解すように、マダラはそっと自身のそれで挟みやさしく口付けを繰り返す。マダラの唇が触れる度に名前の唇も開いて、だんだんとその口を閉ざしている力が抜けていった。

名前の緊張が少し解れたところでマダラは唇を徐々に下にずらしていく。名前の首筋に再び押し付けると名前がフフ、と笑い声をあげた。


『くすぐったい』


自分の顔の横にあるマダラの手をキュッと握りながら名前は子どものようにそう言った。

これから情事が始まるという最中に笑い声を上げるなど本当に名前はこの状況を理解しているのか、今更になってマダラは少し不安になった。それと同時になぜか笑顔以外の表情を引き出したいという感情が急速に押し寄せた。



「…緊張しているという割に、余裕があるようだな」


マダラは首筋から口を離さずに呟く。そのまま首を舐め上げれば自分の手を握る名前の手に力が入る。


『っ』

纏わり付くように湿り気のあるマダラの舌が名前の首をなぞり、擽ったい感触が生々しい感触に変わる。マダラの唇は首筋からだんだんと下に降り、真っ直ぐに伸びた美しい鎖骨も丁寧になぞっていく。名前の首は、手を添えて少しだけ力を入れても折れてしまいそうな程細かった。

マダラがそっと名前の顔に目をやると、ふるふると時々小刻みに震えながらギュッと目を瞑っていた。傷に、物凄く染みる消毒液をつけられた子どものようで、マダラは少し笑った。


「…舌、出せ」


鎖骨あたりの感覚が消え、突然低い声が降ってきて名前は目を開き目の前のマダラを見る。一瞬まばたきをした後、再び強く目を瞑る。おずおずと小さな舌が名前の唇の隙間から顔を出し、それの下側あたりに自分のそれを滑り込ませゆっくりと味わうように絡ませれば、名前の開いた口の隙間から吐息が漏れた。


先程のようにマダラのそれが舌の側面を掠めると、名前の首の後ろ辺りがぞくぞくした。柔らかくて、熱くて、そしてマダラの舌から酒の味が伝わってきて名前はそれだけで酔ってしまいそうだった。


『……ふ、ぅ』


堪えきれずに名前が呼吸と共にくぐもった声を出す。マダラはいつまでもしゃぶっていたいような魅惑的な甘いそれから一度口を離し、そ途端名前は空気を吸い込んだ。鼻で息継ぎをするという行動は名前の頭の中から消え去ってしまっていたので、もう少しで窒息しそうだった。


「名前…」


はあはあと荒い息を繰り返す名前の顔は上気していて、薄い明かりに照らされて唇が濡れているのが分かった。名前の妖艶な表情にマダラの心臓が高鳴る。

たまらなくなり、マダラは名前の手を引っ張りあげ再度体を起こし、襟ぐりに手を滑らせ着流しを脱がせた。


『まっ、マダラ』


抵抗はしなかったが、急くようなマダラの仕草に少し焦ったように名前が声を上げる。肩を滑るマダラの手の平の熱が妙に生々しい。着流しが肩から落ちると、部屋の温度はそんなに低くないはずなのに鳥肌がたった。


「……なぜ下着を付けているんだ」

着流しが名前の肩から完全に離れると和装用の下着が姿を現す。タンクトップの胸から下、お腹の部分が無くなったような形の下着だ。胸の間にファスナーが付いていて開けられるようになっている。まだブラジャーの形の下着は無いので、名前は寝る時も欠かさずその和装用下着を付けていた。


『えっ、だ、だっていつもつけてるから…』


むすっとしているマダラを見て困った様に名前が呟く。マダラは素早くそのファスナーに手を伸ばし、下ろした。名前の胸を締め付けていた圧迫感がなくなり、同時に少しひんやりとした空気がそこに当たる。マダラは下着も名前の肩から外した。


『え…!』


名前は下着を肩から外すマダラに、先程より抵抗するが、少々強引に下着は脱がされてしまった。マダラは無造作にその下着を除ける。突然現れた普段感じない胸への空気に名前は咄嗟に自分の胸の前で腕をばってんにして隠した。

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