-揺れる復讐心-
『イズナ、何か怒ってるのかな?』
センリが自分の食器とイズナのものを洗い流しながら心配したようにマダラに向かって言う。
「いや……イズナもそんなに心配をかける歳じゃねェ。帰ってくる頃にはいつも通りに戻ってるさ」
マダラはそれ程心配した様子もなく、焼酎の入った徳利を傾けていた。
『んん……そっか。イズナももう…二十四歳だもんね。何もかも家族に言う年頃じゃないよね。隠し事くらいしないと』
なんとも単純なセンリはマダラの言葉を聞いて納得しウンウン頷いている。
『マダラ、もうちょっと呑んでる?私お風呂入ってもいい?』
センリは手拭いで濡れた手を拭き、まだ晩酌しているマダラに向かって問い掛ける。
マダラとイズナはすでに風呂をもらっていたがセンリはまだだった。
「ああ」
マダラは短く返事をする。先程から割と徳利を傾けていると思っていたがマダラは全く顔に出ていない気がした。
『ん。じゃあ入ってくるね』
センリはニッコリしながら風呂場へとパタパタかけて行った。
戦ではあんなに足音たてずに気配を消せるのに家では全くその気のないセンリのその軽快な音を聞いてなんだかマダラは笑えた。
しばらくして風呂場の戸が締まる音が聞こえた。マダラは長いため息をつく。
ユラユラと揺れる酒の水面をじっと見つめながらマダラは思い耽っていた。
センリが目を覚まさなかった約四年の間は、長くも感じられたのに、今センリを見るとその期間が幾らもなかったように感じる。
そしてセンリは目を覚ましたが、またいつか眠って今度こそ眠ったままになってしまったら……。
酒が入り前向きになる筈の思考がなぜか逆のところへたどり着いてしまっている。
マダラは言い知れぬ不安を掻き消すように酒を扇いだ。しかし不安が消されるどころか酒が入る度に目が覚め、思考がグルグルと頭を駆け巡る。
「……クソッ」
頭から嫌な思想を振り払うようにマダラは瞼の上に強く手の平を当てる。顔も体も熱いのに、なぜか頭の中だけがひんやりと冷えている気がした。
風呂場でまたセンリが眠ってしまっていたら……また消えてしまっていたら…。
センリが目を覚ましてくれたのになぜそんなに不安な気持ちになるのかマダラは自分が気持ち悪かった。
大丈夫だ。
少し耳を澄ませば風呂場から水音が聞こえてくる。センリはいま同じ家にいる。
少し頭を冷やした方がいいのかもしれない。
ここ最近のイズナの心配は無くなったが、一週間後の休戦協定の件とセンリのこととが頭で交ざりあって混乱しているだけだ。
センリが風呂から出てくるまでの間、ただひたすらマダラは自分にそう言い聞かせた。
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