-揺れる復讐心-
『……その時は私が柱間を殺す』
マダラとイズナは驚愕してセンリを見た。センリにそぐわない、非情な考えだった。
イズナはこの時、センリが本気だということを体にビリビリと感じた。背筋が震えた。
『だから、マダラは絶対に手を出さないで。ちゃんと見ていて』
センリは嘘でそんな事をいう人間じゃないという事は二人とも痛いほど分かっている。
『私の腑を………柱間の腑を』
センリはちゃんと覚えていた。小さな頃、マダラが言った言葉を。
『腑を見せ合えるってことを、私が証明してみせる』
その力強い言葉はマダラの頭にガンガンと響いた。鳥肌が立つほどの強い決意のこもった瞳だった。
「…この四年の間にあった事を分からないくらいお前はバカじゃない。それを踏まえてそんなに強い考えがあるなら…一度その考えとやらを見てやるさ」
センリが思っていたよりもマダラだって夢を諦めていなかった。センリには分かった。マダラは自分では気づかないだけでその希望に光を見出したいと思っていること。
「兄さん…」
イズナはこれ程までに兄が無条件に人を信用するのを見たことが無かった。それがたとえセンリだとしても。
イズナは長く息を吐く。どうやら自分はこの意見に仇なす事など出来ないようだ。
思いの外、うちは一族の忍たちは人数が減っていた。原因はもちろん千手への亡命。
センリが目を覚ましたことでやはり残ったうちはの者達は歓喜したが、マダラが千手一族との休戦協定のことを伝えると想像通り皆反対した。
皆、イズナと同じことを口々にさけんだ。
仲間の無念。家族の敵。なにより仇の一族。
センリだって痛いほど分かった。
しかし、長であるマダラ、それから一族の要であるセンリが絶対に譲らなければ、いつかはそれを許容するしかないのだ。
センリにはもちろんちゃんとした考えがあった。あったからこその決断だ。
本当の勝負は一週間後。センリも、マダラもイズナも、それまでの間耐え忍ぶことを決めたのだ。
センリは四年の間眠っていたなどと感じさせないくらい軽やかに、そして今まで通りに生活していた。体のだるさはまるでなかった。むしろ体が軽くなったようだった。
イズナも数時間後には普段通りに体が動かせるようになっていた。
扉間にやられたらしい腹の傷は綺麗さっぱりなくなっていたし、憔悴していた間の食欲が爆発したように「今まで食べていなかったのだから、突然腹にものを入れ過ぎるな」という兄の忠告も聞かず、その日の夕食を珍しく早いペースでかき込んでいた。
「…で、センリ姉さんはなんで突然眠ってたんだ?力の使いすぎがどうのとか言ってたけど」
唇の端についた白い米粒を自分の指で取りながらイズナがセンリに問う。夜になる頃にはすっかり今まで通りのイズナに戻っていた。
『カルマが言うには……私の治癒の力は体の水分から出てるらしく、医療忍術をあまりにも使いすぎると私の力とカルマの力がうまく交わらなくなって……それで人の欲求がなんか関係してるって言ってたな。だから睡眠欲が出て眠っちゃったらしい』
カルマの話を思い出しながらセンリが話す。しかし実の所センリにもよく分かっていなかった。
「よく分からねェが……とにかく医療忍術を使いすぎるなって事か?」
マダラが眉をしかめながら簡潔に言う。
『うん、多分ね。でももう大丈夫だと思うよ!何となく限界が近くなると分かると思う』
それはセンリの勘だったが、なぜか次は絶対にその感覚が分かると思っていた。
「相変わらず楽観的というか……ボクたちの気も知らないで…」
なんだかイズナの機嫌が悪そうだ。珍しく少しセンリを睨み付けている。
『ご、ごめんって!今度は気を付けるから!』
マダラが箸を口に運びながらセンリをじっと見る。マダラもイズナの気持ちは分かっていた。
いつもセンリは自分の傍にいると約束するのに、なぜかその手をすり抜けていく気がしていた。
『……?』
センリはマダラが前自分が再度現れた時のようにあまり驚かず、いつもより口数少なく酒を煽っているのを横目で見る。マダラは何かを考えるように心ここにあらずといった感じだった。
「……まあいいや。ご馳走様。ボクちょっと出てくる」
まるで反抗期の息子のように少々乱雑にイズナが器を片付ける。
『ええっ、今から?もうすぐ八時になるよ?』
外は暗いし、もう十月だと聞いていたセンリは驚いてイズナを目で追う。
「大丈夫。二人とも久々の再会なんだからゆっくりしなよ」
流しに食器を片付けると、イズナはまだ晩酌をしているマダラに意味ありげな視線を送る。マダラは弟のその何か言いたげな瞳を過去何度か見たことがあった。
「真夜中になる前には帰る」
『えっ、ちょ、イズナ』
センリの問いかけには振り返らずイズナはそう言うと羽織を羽織ってさっさと家を出ていってしまった。
[ 100/125 ][← ] [ →]
back