- ナノ -

-揺れる復讐心-



マダラは目を見張らせた。突然突拍子もない事が耳に入ったのでイズナも瞬きするのを忘れて目の前のセンリを見つめる。


『この…長く続いてきた時代を終わらせるの』


センリの表情は今までないくらい真剣で、冗談を言っている雰囲気など一欠片もない。



「戦を終わらせるだと…?」


マダラの眉間のシワがだんだんと深くなり、寄せられていく。


『千手一族と手を組むの』


センリは視線を、マダラ、イズナと交互に移しながら静かに言う。
センリのその言葉が柱間の言った言葉と重なり、マダラの頭の中で反響した。



「忍最強のうちはと千手一族が組めば…国も我々と見合う他の一族を見つけられなくなる……いずれ争いも沈静化していく」



マダラは悟った。
柱間もセンリも、何年も前に語り合ったあの夢を諦めていないのだ。遠く、薄れていってしまったあの記憶も、二人の中では色褪せてなどないということを。


「だけど…!だったら、今までボクたちが命をかけて……一族を死なせてまで戦ってきた理由は何だったの?何のためにこんな…こんな戦いを続けて……千手はうちはの仇の一族で…!」


イズナは人一倍うちは一族に対する愛が深い。だからこそ死ぬ直前にマダラに自ら目を差し出したのだ。
イズナはそのセンリの言葉は簡単には理解できるはずもなかった。

マダラはどちらにも付かず、二人の会話を聞いていた。


『今この時のためだよ』


焦っているイズナの事を制するように、センリはその手に力をそっといれる。


『きっと、今、終わらせるためにみんなは争ってきた。何のために戦ってきたのか…それは戦いを終わらせるためでしょう?』

「だけど…!」


センリは直感的に今が戦争を終わらせるべき時だと感じていた。


『イズナだって一族を守りたかったからマダラに力を渡した。でも……力だけじゃそれは出来ない。私だって何年も戦ってきた。みんなに比べたらまだまだな方だったけど……うちはのみんなが死ぬところも何回も見た。でもきっと…きっとみんなも分かってる。このまま戦いを続けていれば………

うちは一族はみんな消える』


センリの口から放たれるのは、イズナもマダラも心のどこかで、頭の隅では分かっていた事実。残酷で、でも紛れもない真実。


『私は許す。何年もこんな戦いをしてきた自分たちも、そしてうちはのみんなを殺した千手一族も』


センリだってうちは一族に情はある。何度も隠れて涙を流したし、何も変えられなかった自分を悔やんだ。しかし、その葛藤はすべてこの時のための糧になっていると信じていた。


『千手一族と組もう。そして終わらせよう』


マダラの心は揺れていた。
イズナが扉間に致命傷を受けたあの日、同じことを柱間に言われた。マダラは迷っていた。いつの日か柱間とセンリと共に描いた未来。
しかしイズナは信用出来ないとその手を振り払った。そして一度死んだイズナは今目の前にいる。

一族を守る、という事はどういう事をすべきなのか。マダラは揺れていた。


「……ここ一年ほどで千手一族に亡命するうちはの者がかなり増えている。皆、終わりのない戦いにもう疲弊している。そして一週間ほど前千手一族から休戦協定の書状が届いた」


マダラは手に力を入れてイズナとセンリから離し、腕を組んで言った。その声は落ち着いていた。

実際、うちは一族の半数ほどがいま千手に亡命している。この先戦いを続けたとしてもうちはが負ける事は目に見えていた。


「だけど……奴らを信用出来ない!」


イズナが声を荒らげる。イズナもそれは重々承知していた。しかし降参して仇の一族の下につくなど考えたくはなかった。


『イズナ、休戦協定は和平交渉だよ。うちはと千手が同盟を結ぶ。争うことをやめるっていう条約だよ』

センリは辛抱強くイズナに語りかける。


『私に考えがある。本当に千手一族を信用出来ないかは、イズナがちゃんと自分の目で確かめてからにして』

マダラとイズナはセンリの言葉に眉を寄せた。


『…マダラ、千手一族に返事をして。“本当に休戦したいなら今から一週間後の正午に、千手柱間一人で…武器は持たずに身一つで、うちは一族の集落に来い“…ってな感じでね』

「……奴らを試すのか?」


センリらしくない考えにマダラが少し動揺する。人の気持ちの裏をかくような、文字通りセンリらしくない考えだった。


『そこで…柱間の本当の気持ちを見るの。マダラ……私に任せてくれないかな?』


休戦協定を結ぶかどうかは長であるマダラが決める事だったが、センリがあまりにも真剣に訴えるのでマダラはその意見をのんだ。



「………分かった」


「兄さん!」



マダラの言葉にイズナが鋭く反応する。


「イズナ、お前の言いたいことは分かる。俺だって気持ちは同じだ。手放しで奴らを信用などできねェ」


だがマダラはセンリのことは心から信用していた。センリがこんなにも必死にやろうとしていること。それを見てみたいのも確かだった。


『マダラ…』


自分の考えを受け入れると言ってくれたマダラにセンリは嬉しそうな顔を向ける。


「だが、もしも柱間がそれに従わず千手の忍を従えてきたら……うちはに攻撃を仕掛けてきたら……」


マダラは表情を緩めずにセンリを見つめる。

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