-揺れる復讐心-
『イズナ』
センリはイズナの手がキュッと結ばれたのを感じ、その手の上から自身の手でやさしく包む。
『写輪眼を使えないのになんで生き返らせたのって思ってるでしょう?なぜかなんて簡単だよ。私はそれでもあなたに生きていて欲しい。私のわがまま』
永遠に赤く光が灯ることのないその黒い瞳でイズナはセンリを見つめた。
『私の独断で、あなたは写輪眼がないまま生きていかなきゃならない。私がイズナを生き返らせたが為に、あなたはもう一度この世界を生きなきゃならない』
幼い頃のイズナに言い聞かせるように、ゆったりと。センリはこの三年と十ヶ月の間眠っていたのに、何故かマダラとイズナが戦いに明け暮れていたことを想像できた。実際その通りだった。二人はもう何のために戦っているのかわからなくなりつつあっていたのだ。
今まで戦場で何人もの一族達が死んで、それを見てきた。何故イズナだけを生き返らせたのかと、罪悪感ももちろんある。
しかしセンリは直感していた。
イズナを死なせてはいけない。
頭の中で誰かの声が響くような、不思議な感覚だった。それがカルマの声なのか、又は違う誰か…自分の声なのかは分からなかった。勘にも似た、第六感の気付きがセンリを突き動かしていた。なんの理由もなく、カルマが力を持って渡すはずはない。
『恨むなら私を恨んで。でもね、私はそれでもイズナに生きていて欲しい。今までたくさんうちはの人達が亡くなった。戦争で。だけど私は今あなたを生き返らせた。完全に私のわがまま。
でもお願い、イズナ。私の為に……私とマダラの為に、生きて』
イズナもマダラも、この四年で何よりも見たかったセンリの澄んだ笑顔だ。偽善だって綺麗事だって、センリの口から出る言葉はまるで浄化され汚れなきものとして紡がれていく。他の人間にそんな事を言われたって聞く気にもならないのに。
なのにそれがセンリの口から、センリの声で耳に入ると何の抵抗もなくすとん、と心に落ちていくのだ。
「姉さん……」
センリは固く閉じられたイズナの手の平を幾分も小さなその手で解く。それはイズナの心も同様でセンリの声に包まれて解きほぐされる。つい先程まで戦で人の血を見てきたというのに。なんという心地よさか。
『私たちは家族だもん』
センリは向かい側のマダラの手も引き寄せ、自身とイズナの手と絡ませた。柔らかな確かな温もりがイズナとマダラの手を包む。
そうだ。いつもこうやって自分たちは守られてきたのだ。こんなにも小さくて細いこの手に。
「……分かった」
イズナはセンリの慈愛に満ちた眼を見返して、決めた。
「ボクは一度死んだ。でも姉さんの手で再び命をもらった。なら………この命は姉さんの為に使いたい」
イズナは選んだ。
写輪眼がなくとも…力がなくともセンリの近くで生きることを。
『んん……ちょっと違うな。私の為に使っちゃダメ。イズナが生きていてくれればそれでいい。だから……』
センリは長く呼吸を吐いた。
マダラもイズナも何かとその次の言葉を待つ。しかし、その艶めく唇から聞こえてきたのは二人の想定外の言葉だった。
『戦争をやめよう』
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