-揺れる復讐心-
「…イズナ……!!?」
なんとイズナのその瞳がゆっくりと開かれたのだ。
マダラは動揺を隠せない様子でイズナに擦り寄る。
「に、さん………?」
イズナは声がした方に目を向け、ゆっくりと言葉を発した。口が微かに動き、その黒目もしっかりとマダラを捉えていた。
マダラの目から涙が一筋滴り落ちた。
「イズナ…!」
動くはずのないイズナの目が、唇が、その顔が……イズナが呼吸している様子を見てマダラの表情が驚きから歓喜に変わる。
センリも安堵して足を崩した。やはりカルマの言っていたのはこういう事だったのではないかと、センリは納得した。
『イズナ』
センリが名前を呼ぶとイズナは遅々たる速度でセンリの方に頭を向ける。
そして今度はイズナが驚く番だった。
「…!……ね、え、さん…」
先程より幾らかハッキリとイズナは声を発した。センリはやさしくイズナに微笑んだ。
『実はついさっき目を覚ましたの。誰かに呼ばれた気がしてたんだけど……イズナだったのかな』
イズナの見上げる先には長らく見ていなかったような気がしていたのに、なぜか見慣れたその笑顔。ずっと見たかった笑顔があった。
「姉さんが……助けに来てくれたの……?」
掠れたイズナの声にセンリはにっこりと笑ってみせた。イズナは突然、センリが自分をもう一度生き返らせてくれたのだと理解していた。
「姉さんが……ボクを…………」
センリはイズナの胸の上の手を再度握る。そこには確かな生の温かさがあった。生きたぬくもりだ。
『うん。弟の一大事に飛び起きたよ!』
センリが朗らかに言う。マダラはもう泣いてはいなかった。
「…ずっと眠っていたくせに」
マダラがボソッと呟いた。
しかしマダラにはもうその事についての怒りなど忘れてしまっていた。
目の前にはセンリがいて、そしてイズナは生きている。
センリがイズナを助けてくれた。
その事実は今までの空白を消し去ることが出来るくらい大きく影響のある出来事だった。
「…死んだボクを、生き返らせたの?」
視界が見えるようになったイズナがマダラの手を借りてゆっくりと体を起こす。先程まで死んでいたとは思い難い。
『さっきカルマに言われたんだ。もう出来ないだろうけど……』
センリは何でもないと言うふうに後頭部に手を当てて笑ったが、マダラとイズナはひたすらに驚いていた。
『ただそれ以前は、呪いがあるにもかかわらず力を使いすぎたから眠っちゃってたみたいで……ーーー』
「力の使い過ぎで四年も目を覚まさなかったということか?」
マダラが素早くセンリに質問する。
『よ、四年……そっかそんなに………うーん。呪いで縛られてるうちは、カルマの力を使い過ぎると色々と良くないみたい。でも大丈夫だよ!もう眠らないようにするから』
センリは二人を安心させるように言う。しかしマダラもイズナも納得しなかった。
「どうしてボクを生き返らせたの?」
その事実を知って少しだけ怒ったようにイズナが言った。本当であれば自分は今日死んだはずだったのだ。センリは己の力をたくさん使ってまで自分を生き返らせた。死んだはずだったのに。
『確かに…私がイズナを生き返らせた事でこの先何かが変わってしまうかもしれない。それに…イズナももう写輪眼を開眼しないと思う』
イズナはそれを聞いて手をキュッと握り締めた。
「だったら俺の目を…!」
マダラが言う。マダラの今の眼はイズナのものだ。だったらもう一度それを移植し治せばいい。
『マダラ、それはできない。イズナのこの目はもうイズナの体から切り離すことは出来ないの……カルマがそう言ってた』
それに、センリは確かにそこに新しい眼を作り出すことが出来るがそれはもう、ものを見る事にしか使えないし、その者から取り外すことも出来ない。
それにカルマが言っていたことを踏まえると“失われた力が戻ることは無い”とはそういう事なのだろう。分かっていながら、カルマは、イズナを生き返らせるべきだとセンリに伝えたのだ。きっと何か重要な理由があるのだろうとセンリは思っていた。
「写輪眼が使えないなんて…」
うちは一族として生きている意味が無い。
マダラが呟くように言った先の言葉はイズナも同じことを思い浮かべていた。
写輪眼が使えないうちはの者などあってはいいのだろうか。イズナは心の中にふつふつとそんな思いが湧いてきた。
しかしセンリだって分かっていた。
命を吹き込む代わりに大きな力をなくしてしまうこと。
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