-揺れる復讐心-
『……マダラ…?』
全身の力が抜けてイズナの前に座り込んでいたマダラの耳に、突然懐かしい声が聞こえた。本当に唐突だった。
マダラは部屋の障子が開けられたことにさえ気づかないでいた。そこから射し込む光にも。
まさか。
マダラはその光を辿って目線を上げた。
「センリ……!お前、目を覚ましたのか…!?」
目の前に立つセンリはしっかりと地に足をつけていて、軽やかに体を動かしていた。今までもずっとここで生活していたような雰囲気だ。
しかしマダラがその声を聞くのも、動いているところを見るのも四年ぶりだ。
『……!………』
センリがイズナの姿に気付きその亡骸も前に膝をつく。いくら鈍感なセンリにも分かった。そこに横たわる亡骸はイズナのものだと。
「千手にやられた……っ」
センリが目を覚ました事が嬉しいはずなのに、イズナが死んだ事実が目の前にある以上、マダラは心から喜ぶことなど出来なかった。
センリは悲しげにイズナを見る。
痩せた腕を見る限り、随分前から衰弱していたように思えた。
しかしこの時イズナの亡骸を見てセンリの心に不思議な感覚が走った。
『(さっき……カルマが言ってたのって……)』
たった今、カルマから言われた言葉がセンリの頭を巡っていた。それは直感だった。
『(もしかしてカルマ……)』
センリは冷たくなったイズナの手に自分の手を重ねた。マダラはセンリを見る。
『イズナが亡くなったのはいつ?』
イズナの姿をじっと見つめる四年ぶりに見たセンリは懐かしく、そしてやはり美しかった。
「……何時間も前だ」
マダラが小さく言う。
センリは今までに無いくらいに悲痛なマダラの顔を見上げる。そうするとマダラは何時間もイズナの亡骸の横で泣いていたのだろうか。
『…………目を移植したんだね』
センリにはすぐに分かった。
マダラの瞳にはイズナの目……写輪眼があると。
「イズナは…一族を守る為に俺に力を残した」
マダラの辛そうな声が耳に響く。センリの頭の中に先程とは違うカルマの言葉が流れてきた。
インドラの意思を離すことは出来ないと。
『(そうか………このままじゃ…)』
このままではマダラは闇に走る。
センリは直感的にそう思った。センリは何かを決心したように動く。
『(カルマ、そういう事だよね。あなたが言っていたことは……“今”が、そうすべき時だと、私は思う)』
イズナの包帯を巻かれた目の上に手をかざす。センリの白いチャクラがイズナの目に流れていく。体の奥に満たされているカルマの力と自分の力とを結び合わせながら、ゆっくりとそれをイズナに移していった。
「……」
マダラはセンリがイズナの目を治そうとしているのかと思い、その亡骸から目を逸らした。
「もういい、センリ」
完全に諦め、沈鬱な様子のマダラが小さな声で言った。しかしセンリは行為を辞めず、そっとマダラに微笑んだ。センリが何をしたいのか、マダラは全くわからなかったが、それを問いつめる元気もなかった。
『大丈夫だよ、マダラ』
穏やかな笑みを浮かべるセンリを、マダラは困惑の目で見ていた。聞き慣れた穏やかな声を聞いたマダラは、突然目頭が熱くなった。
そして、センリの手がイズナの目から離れたと思うと、今度ははその顔の横に手をつき、顔を近づけた。センリの長い髪が肩からサラリとイズナの顔のそばに落ちる。
『(私の中にある力、全部……全部を集めて…………)』
センリは目を閉じ、今までにないくらいに集中した。不思議な感覚だった。注ぎ込まれたカルマの力と自分のチャクラが瞳に集中し、まぶたの裏がひんやりと冷たくなる。なにか大きな力が、自分の目に結集していた。
「……これは…」
その涙が落ちた瞬間、イズナの体が白い光に包まれる。マダラはその神秘的な光景に絶句した。いつものセンリの医療忍術とは違う、もっと大きな力が込められた白銀の光だった。
マダラの言葉が出ない内にその光は徐々に収まり、そこにはまた夕焼けの光が射し込むだけとなった。
センリはマダラにやさしく微笑みかけた。
「なにを……」
その笑みが分からずにマダラが固まっているとセンリはイズナの頭の下に手を入れて目を覆っている包帯を取り始めた。
マダラが何も出来ずにそれを見ているとセンリは包帯を全て外し終えた。
そして……−−−。
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