- ナノ -

-恋慕-



そして一日が過ぎても、一週間が過ぎてもセンリが再びその笑顔を見せることは無かった。


マダラとイズナは何度も術をかけてみたり、声をかけ続けたが、センリはそれに反応しなかった。

しかし息はしている。心臓も動いている。
マダラとイズナは毎日センリの呼吸を確認した。

センリが眠り続けている間にも戦は続いた。マダラは戦いが少し手につかなくなっていた。千手に攻撃を繰り出していても、万華鏡写輪眼を使っていても、いつも頭のどこかでセンリの事を考えてしまっていた。

その油断が隙を生んでしまい、何度か危ない目にもあった。イズナはそれを分かってはいたが、何せ自分も同じことを考えているので気持ちは痛いほど分かった。


センリが眠り続けて一ヶ月が過ぎると、マダラはさすがに気持ちを切り替えた。また戦いに明け暮れた。

今日はセンリが目覚めるかもしれない、明日こそ起きるかもしれないと思いながら過ごしているうちにだんだんと一日が過ぎるのが早く感じるようになる。

センリがいなければ医療忍術を使える忍は限られてくるし、何よりセンリほどの高等忍術を使える者などいない。

負傷者が出る度に、死人が出る度にセンリの存在の大きさをまたシクシクと感じなければならないのだった。

うちはの者達もセンリを心配した。
まだセンリは目覚めないのかと毎日誰かしらにマダラは訪ねられた。特に子どもたちはセンリが目覚めるのを心待ちにしていた。

一族の誰もがセンリを気遣い、懸念した。

またセンリのいなかった日々の仄暗い、暗雲のような雰囲気が一族を包んでいった。まるで光をなくしたように。


またセンリが消えていた時の生活がマダラとイズナに訪れた。

ただ、前と違うのは、センリの存在は確かにここにあるという事だった。確実にあるのに、でもその笑顔を見られる訳では無いし、あの声も聞こえてこない。

マダラは毎晩センリに寄り添い、声をかけ続けた。そうすればセンリは絶対にいつか声を返してくれるような気がした。


「センリ、お前が眠ってからもう半年も経つ。まだ目を覚まさないのか?そろそろ体を動かしたいだろう?そんなにいつまでも眠っていると起きた時に大変だぞ」


センリのサラリとした綺麗な髪を解きながら、毎日やさしく語りかけた。


「一族の子ども達が、早くお前と遊びたいと、毎日しつこくしてくるんだ。センリ、お前だって様子が気になるだろう?早くあいつらと川で魚の掴み取りでもして遊んでやれ。川魚を取るのに一番いい季節を逃す事になるぞ」


目を閉じているセンリはまるで人形のようだ。動かないという意味でも、美しい彫刻のようだという意味でも。頬も、唇も、こんなに温かいのに、何度話しかけても長く生え揃ったたくさんの睫毛はピクリとも動かない。


「お前はいつもそうやって俺を置いて行く……お前は今ここにいるが、それでは意味がねーだろう?ちゃんと目を開けて俺を見て、声を聞かせてくれなければ……その笑顔を見なけりゃ意味がねーだろ…」


マダラは唇を噛み締める。下唇が痛い。一人で語りかけていると柄にもなく鼻の奥がツンとする。


「センリ…早く目を覚ませ……でないと俺は…」


おかしくなりそうだ。
マダラは髪を撫でていた手を離し、握り締める。爪が手の平にくい込む。


「もう一度、俺に………」



『マダラ』



センリの声がやさしくマダラの脳内に響き渡った。いまでも色褪せることなくセンリの笑顔も声もそこにあるのに。

大切なものほど自分をすり抜けて、途端にそれは手の中に無いだなんて本当にこの世界は非情だ。


いつもセンリの気持ちはマダラの手をすり抜けていくような気がした。

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