-恋慕-
その日の昼過ぎ。
うちは一族はいつものように戦を終わらせ、負傷者を数人介抱しながら集落に帰ってきた。
マダラは続々と帰ってくる忍たちの一番後方から姿を現す。その背にはぐったりとした忍。
マダラは早くセンリの顔を見たかった。そう、いつものように。
しかし自分たちが集落に着いてもセンリが現れない。いつもなら負傷者を治療するためにどこからともなく現れてきてすぐさま治療に当たっているはずなのに。
センリが帰還する忍たちの気配に気づかないはずない。マダラが少し眉を潜め、背負ってきた忍をゆっくりと地面に下ろす。憔悴していたが怪我はしていないようだった。
「マダラ様!」
遠くから女の声がしたのでマダラは見上げたが、すぐにセンリではないことは分かった。一族の若い女だった。
「どうした?」
女は息せき切ってマダラに駆け寄る。その顔は蒼白とまではいかないが切羽詰った様子だった。
「センリ様が…!」
マダラはその名前に鋭く反応する。なにか言い知れぬ不安が取り巻き、心臓がドクドクと脈打つ。
「とにかく…来てください!」
女が急いでそう言うのでマダラの足は無意識に動いていた。
女の背を追いかけて行っている途中、今日はそんなに負傷者はいなかったとかイズナが後をやってくれるとか一族の長としての思考が頭をよぎっていくのにちゃんと考えられているかどうか怪しかった。センリに何があったのか、無事なのか、色んな感情がぐるぐると回り続け気持ちが悪い。
女が案内したのは自身の家だった。
玄関を入り部屋に案内されるとマダラはその状態に目を見開く。
「センリ…!」
布団に寝かされ、それはまるで眠っているように見えたがあまりの静かさにとっさにマダラはセンリに近づき息を確認した。
……生きている。
布団から顔を出し規則正しく呼吸をしているセンリにとりあえず安心した。
「何があった?」
マダラは同じくセンリの横に膝をつく女を見て問いかける。確かセンリとはたまに一緒にいるのを見かける女だった。
「それが……」
女も心配そうにセンリを見つめながら、その時何があったのかを話し始めた。
マダラたち一行を見送り出した後、センリは食料補充にその女と共に一族の食材屋の人間のもとを訪れていた。
いつものようにセンリは楽しそうに会話していたが、その時突然崩れ落ちるように倒れてしまった。
センリは気を失っていた。女は戦場に行かなかった何人かの忍たちを呼び、センリの体に何が起きたのか見てもらったが、全く理由が分からない。
センリは痛がる様子もなくまるで眠るように倒れ、そしてこの時間まで目を覚まさずずっとこのままなのだと言う。熱や他の症状もなく、本当に眠っているだけのように見えた。
女は自分の家に運び、センリを寝かせた。
センリの心臓は動いているし、呼吸もしている。だがセンリに声をかけても、体を揺すっても目を覚ますことは無かった。
マダラは話を聞いて訳が分からずセンリの安らかな顔を見つめる。とにかく生きているということが分かればマダラの心はいくらか落ち着いた。
「幻術解除をしてみたり、何かの術をかけられたことも疑ってみたのですが………どうも本当に眠っているだけのようなのです」
女は何が何だかわからないと言った様子だった。
「事情は分かった。眠っているだけならそのうち目が覚める。世話をかけたな」
マダラは女を見る。本当に心配そうだ。
この頃センリが眠そうにしていることは頻繁にあったので、マダラは何時間かすればセンリが起きると踏んでいた。
マダラはセンリを家に連れ帰り、再び寝かせて様子を見た。
しかし夜になっても…マダラとイズナが次の日の朝目覚めても、センリがその目を覚ますことは無かった。
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