- ナノ -

-うちはマダラ-



鬱蒼と茂った、緑の森々に囲まれた川の側。


昼間の陽の光が川に反射し、キラキラと光っている。太陽はちょうど真上。正午の時間だ。


その森の草むらがガサガサと音を立てたかと思うと、一人の少年が姿を現す。少し青みがかった黒髪短髪の少年だ。まだ十歳にも満たないだろうに、幼い風貌とは比例しない、憂いを含んだ鋭い眼孔だ。


少年はその眼で周囲を警戒するように見回しながら川辺へと歩み寄る。そして、なにやら川辺の大小様々の石を見定め始めたかと思うと一つの石を持ち、ポーンと川へ投げ入れる。投げ入れるというよりは水切りをするような投げ方。しかしそれは一回水の上で跳ねたかと思うとポチャンと川の中に消えてしまった。


「……」


それを見て少年はあからさまにガッカリする。その姿はいかにも幼さの残る子どもの動作だというのにどこか大人びた、ませた様な体の動かし方だった。そしてまた次の石を探し始める。


「なんだ、あれ…」


少年はふと空を見上げ、視線の先の空にはなにか光る物体が。それは昼間だというのに、まるで夜空に浮かぶ星のようにキラッと煌めいている。


少年はその目を凝らす。するとそれはこちらに向かってゆっくりと降りてきているように見えた。


本当に、ゆっくりゆっくりと。その光は少年のところへと舞い降りてくる。驚いたことにそれは人間だった。


人間の女性が光を纏って少年の目の前に降りてきたのだ。立ち竦んでいた少年は咄嗟に敵に向かってそうするように警戒する体制をとる。


女性は横になり地面にふわりと背をつけた。重力に逆らっていた髪が川原の石の上に散らばる。その人間は眠っているように見える。数十秒経っても女性が起きる様子はない。


数分経っても変わらず、少年は少し距離を取って女性を見ていた。しかし何の音沙汰もないので、恐る恐る、眠っている女性に近づいた。


「………!」


女性の体を包んでいた光が徐々に消えていくと女性の姿がよりはっきりと見えた。
少年はそれを覗き込むように女性の傍らへ膝をつく。


「天女………?」


少年は誰に言うでもなくつぶやく。
女性の髪は白銀に輝き、眠る表情からも見てわかる美しさだ。天から降りてくる様は天使か、天女のそれを思わせた。少年は女性に見とれていたが、ハッと目を見開いて周囲をまた見回す。


「一体なんなんだ…」


少年は辺りに人の気配はないと感じ、また女性に目を戻す。


すると、女性の目がピクリと動いた。

「!」


少年は立ち上がり少し後ずさりし、その場に身構える。目の前の女性は、影をつくるほど多くの睫毛に縁取られた瞼を数回痙攣させたかと思うと、眩しさに少し逆らいながらかなりゆっくりとその目を開けた。

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