-恋慕-




今日はマダラの二十三回目の誕生日だった。ついこの間二十二歳になったと思ったのに……はあ。時って素敵だけど、怖い。

マダラは誕生日にはいつもお稲荷さんを食べたいと言う。子どもの頃から変わらずでとてもかわいい。マダラがお稲荷さん好きだから私にとっても好物になったくらい。なんかおもしろいよね、それって。

戦いの日々だからこそ一回一回の誕生日を迎えるのが嬉しい。その度に成長していくマダラとイズナを見るのも嬉しい。

まるでインドラとアシュラ………いや、違う。

二人はほかの誰でもない。ハゴロモでも、ハムラでも、誰でもない。マダラはマダラ。インドラじゃない。

戦いでマダラの赤い瞳を見る度に自分に言い聞かせた。
でも言い聞かせることで、私の中で他の……違う感情も生まれてしまったように思う。


…私は最近おかしい。

何がおかしいのかって言ったら…うん。まあとにかく聞いてほしい。……いや、独り言だけど!

大人になったマダラと過ごして、マダラの笑顔を見る度こう……胸がキューッて苦しくなる。戦場でも長としても、なかなか見せることのないその優しい表情。それを向けられる度になんか苦しくなるんだ。それと同時に他の人は知らない…イズナは知ってるけど………でも、きっと誰も見たことがないって思うと何だか嬉しくなっちゃう。

みんなは知らないんだって。こんなマダラを見たことがないんだって何か不思議な気分になる。

意識しようと思わなければ大丈夫だけど、ちょっとした事でマダラを変に意識してしまうのも事実。

百年も生きてきて初めての感情。

…いや真面目に言ってるんだよ?

私はそれに戸惑っていた。

戦から無事にマダラが帰ってきたとわかる度に安心してしまう自分がいた。


あんまり気にして見ていなかったから分からなかったけどマダラは、すごくかっこいい。子どもの時から大人っぽい、やけにキリッとした顔立ちだとは思ってたけど…。大人になるとやっぱりかっこいい。悪人面って感じであるといえばそうなんだけど、私にとってはいちばんかっこいいなあっ、て。

……くっ…何かそう思うと恥ずかしくなってきた…。


もう子どもの時のマダラじゃないんだって見る度に思う。

確かにイズナだって、それから柱間だって扉間くんだって、他にもかっこいい人はたくさんいる。うちはの人達は…特に忍の人達は男女問わず顔が整っている人が多い。なのになぜかマダラだけは特別におもっちゃうんだよね。


普段前髪に隠れているからあんまり分からないけど、なんだっけ、眉目秀麗…?すごく整った顔立ちをしてる。
鼻筋はスッと通ってるし、男の人なのに肌もキレイ。何でヒゲとか生えないんだろ?目はくっきり二重の切れ長で大きくて、最近その目の下に出てきたシワがかわいい。薄い唇なんてだんだん色っぽく……イヤイヤ何考えてるの私のスケベ!

…とにかく、前髪で隠してるのがもったいないくらいだ。何で髪の毛伸ばしてるんだろ?今度聞いてみよう…。

いつも眉を寄せて仏頂面だから少し怖くも見えるけど、たまーにニカッて笑う表情がすごくすき。子どもの頃と変わらない、かわいい笑顔が私はすきだ。

それから驚いてしまうのは体格。
子供の時なんてあんなに細かったのに今は筋骨隆々…とまでは行かないけどすごく男らしい。

昔と違って今はあんまりくっつく事はないけど、お腹とか腕とか…どこ触ってもかたいんだよ。確かに十歳くらいになったら私よりも力あるんじゃない?って感じにはなってたんだけど…それにしたって体がかたい!小さい時の柔らかいマダラはもういないんだな。…ちょっと寂しいかも。

イズナは心配しちゃうくらい細身だけど、マダラは割と体格がいいんだよね。逞しいって言うのかな?いきなり背中に飛び乗っても全然よろけたりしないし、私には全っ然つかないのによくあんなに筋肉がつくもんだ……。

夏のお風呂上りなんかに上半身裸でいられたら私はもう羞恥で直視できない…マダラ、気づいてないよね…。

イヤ、だって!そんなまじまじと男の人の体なんて見たことないからね!ハゴロモたちと過ごした時代じゃあんまりそういうの見なかったし!

うん……考えたら恥ずかしくなるからやめよう。


あとは……中身の方は小さい頃からあんまり変わらないかな?

強気で自信家で負けず嫌い。で、照れ屋さんの恥ずかしがり屋さん。
…うん。我ながらピッタリな表現!

修業の時も絶対に手は抜かないし、子ども相手でも容赦はしないし……。他人に厳しいけどそれ以上に自分に厳しい。今でも一族の中で飛び抜けて強いのに修業は怠らない。戦でもそう。他人に負けるのも嫌だけどそれ以上に自分に負けるのがイヤなんだろうな…。

戦うのがすきで、私と修業して手合わせする時は本当に楽しそうにする。私はマダラより強い自信はそれなりにある。でもマダラは自分が追い詰められる戦いが楽しいみたいで、私にはその気持ちはちょっと良く分からない…。

手合わせではいつも私が勝つけど、純粋な力勝負だったらもうマダラには勝てない。いや、もう小さい子にも負ける時あるけどね!

それから、小さい頃からそうなんだけど、割と一人で背負い込む癖があって、戦う時も何だかんだ個人主義だ。自分の力量を知っていてそれより弱い人を見下すようなことを言う時もある。


でも意外と面倒見が良くて、長として皆から慕われてる。尊敬されてるって言うのかな?みんなマダラの言う事なら従うし、でもその分一族への愛情はすごく深くて仲間への情が厚い。仲間を守る為ならマダラは潔く自分を犠牲にすると思う。

それでいつも一人で何とかしようとしてて、切羽詰って家でも口数が少なくなってぼーっとしてる時があるんだけど…割とすぐ顔に出るから分かりやすい。


好き嫌いがすごくハッキリしてて意外と顔に出る。
野菜売りのおばちゃんなんかと長く話し込んじゃうとびっくりするくらい無表情になるし。それで家に帰ると「話が長すぎる」とか「今日は折角時間がたくさんあったのに損した」とか言ってきて、子どもの時と変わらない。自分勝手な時もあるけどなんだか憎めない。

昔から子供扱いされるのを嫌がってて、大人になってからもいつもは頼り甲斐があるのに、ふとした時に甘えたそうな顔でこっちを見てる時があって……。

子どもの頃は、俺の後ろに立つなが口癖で、「後ろに立たれると小便が止まる繊細なタイプ」とかなんとか言ってたけど本当にその通り。

十歳くらいの時、一族の少し年上の子ども達に「マダラは他人に厳しすぎるんだ、だから一緒にいると修業が上手くいかなくなるんだ」ーって兎や角言われた事があってね。その時マダラはその子たちを睨んだだけだったんだけど(殺してやるみたいな睨み方するから相手の子たちが泣いちゃって大変だった…)、後から私に「やっぱり俺って人に厳しすぎるのかな?」ってすごく悲しそうに聞いてきてさ。あの頃のかわいさといったらもう……。

多分マダラからしたら、その一族の子ども達に辛く当たっている訳じゃなかったし、むしろ大切な仲間だと思ってたから本当はショックだったんだと思う。

人に嫌われようが別に構わない、みたいな事を言ってるけど本当は違うと思う。

嫌われてもいいやって人ならいると思うけど、嫌われたいって思ってる人なんていないよね。


マダラはぶきっちょで言葉足らずな所があるから勘違いされがちだけど、本当はとっても優しいんだって、私は知ってる。

他人を敵に回す事も多いマダラだったけど、だからこそ私は味方でありたかった。マダラの良いところはたくさん知ってるし、天の邪鬼でちょっと強がりで我が儘なところもすきだった。

私にとったらそれがマダラだし、むしろちょっと我が儘なところも可愛げがあるし…。これはもしかして惚れた弱みってやつなんじゃ………ゴホン。

満月の日、私が熱出すと心配して世話を焼いてくれるし、その日はチャクラが使えないからずっと私の側にいてくれる。昔から集落の外に遊びに行くと「何かあったら困るから絶対俺から離れんな」って言ってくれてたけど大人になってから私の事をより心配するようになった気がする。私別に迷子になったりしないのに…。

なんかこう、俺様気質なところがあるんだよね。イズナは割とおおらかな感じで、確かに心配性なんだけどマダラほど強引ではないっていうか。そんなところも可愛く見えるんだけど…。


マダラが小さい時は守ってあげたいって、そればかり考えてた。今もそれは変わらない。

でも今となってはその子ども達をマダラは守る側になっているんだと思う。


私はマダラが本当に優しいんだって事を知っている。

それは、敵の忍であっても幼い子どもと戦う事は絶対にない所だったり、うちはの子どもを戦場に出す前に厳しく修業をつけたりしている所だったり、それからそれが誰であろうと、小さな遺体を見る度に見せる悲しげな姿だったりする。



確かに、みんなが言うようにマダラは強い。
だからこそカグヤのように……インドラのように一人で歩いていってしまわないように私はマダラの隣にいたい。

後ろでも前でもなくて、隣で歩きたい。

マダラの大切なもの…一族もイズナも守りたい。

マダラが戦争の無い世界を願っているのは知ってる。子どもの頃からずっと言ってた事だもん。

でもマダラは戦う事がすきだ。戦でもすごく好戦的だし。


けれどそれは戦争で発揮してほしくない。うちは一族は割と戦いを好む人が多いけど、その力は戦争でつかってほしくない。

力を頼りすぎてそれに呑まれてほしくない。今度こそは……。

今度こそは、道に迷ったりしないよう、しっかり隣で見ていたい。彼の側で、いちばん近くで歩いていきたい。

マダラを支えたい。一緒にいたい。悲しみも辛いのも、ぜんぶ私が受け止めたい。心を受け止めたい……

これまで誰かにこんなに強い気持ちを感じたことは無かった。どうしてだろう。なんでマダラにだけこんな気持ちになるんだろ?不思議……


みんなは私を光の巫女だとか女神だとか言うけど、全然そんなんじゃない。

私はすごくわがままなんだと思う。

自分が大切なものは全部守りたい。
マダラもイズナもうちは一族も、そして千手一族も。それからハゴロモが描いたこの世界を、守りたい。

光なんかじゃない。
ただ自分のしたいことをしてるだけ。自己中心的だ。

でも…

それでも私を、私の力を必要としている人がいるなら私はいつだって応えたい。

貪欲。

こんな欲張りだって知られたらマダラ、私のことどう思うのかな…。

欲にまみれた女だって言われちゃうかなあ。


私は成長しないからどんどん自分より大きくなっていくマダラを見ることになる。
いつの間にか私の見た目と同じくらいになって、私よりも歳をとって。

そうしたらマダラが死ぬところも……。


五年前扉間くんにマダラが死んだら…って聞かれた。その時私はそれでも諦めないって、変わらないって言ったんだ。

今ならわかる。

確かに多分私は諦めない。


でも……

すごくすごく、悲しいんだろうな。悲しくてやりきれなくて、ずっと泣いてしまうだろう。



結局のところ、私はマダラを一番大切に思ってしまっているんだ。



いつも戦場で、人が傷つくのを見て、人が亡くなるところも見て。それなのにこんなに自分のことばっかり考えて、不謹慎…。

イズナに偉そうに愛だの恋だの言っといて…。


普段考えてなければ大丈夫だけど、ふとした瞬間…たまに考えてしまう。

マダラに好かれたいなあ。

マダラにもっと近づきたいなあ。

マダラとずっと一緒にいたいなあ。

もっと。


もっと、って。

その為に戦争が終わって、そしてみんなで笑い合いたい。うちは一族の為、みんなの為と言いながら、結局私はマダラの為に戦争を終わらせたいのかもしれない。

戦がなくなったら……私の気持ちが報われることはあるのかな?

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