-恋慕-



マダラの二十二回目の誕生日が過ぎると少し戦が頻繁に起きるようになった。

センリがいれば死者はそれほどまでには出ないが、全ての犠牲を無くせる訳では無い。

戦が多くなってくると、一族の雰囲気も変わる。殺された者の家族はそれを受け止めることしかないと分かってはいるが、すぐには悲しみから立ち直れない。

センリは毎日のように、遺体が埋められている場所に行っては手を合わせていた。


「センリお姉ちゃん」

花を供えていると後ろから小さな子どもの声がする。センリが振り返るとそこにはいくらか前の戦で父をなくしたうちはの女児の姿があった。


『どした?』

センリは歩み寄り、膝をつき、目線を合わせる。一族の女の幼子は男の子と比べれば修業もしないし、戦に出るための力を養うこともあまりない。
少女はクリクリとした大きな黒い瞳でセンリをじっと見つめる。


「センリお姉ちゃん。いつになったらたたかいは終わるの?」

純粋な、小さな子どもの問いかけにセンリは心が痛む。


「母様がね、父様はたたかって一族のために立派にしんだのよって言うの。でもね、せんそうしなければ父様はしななかったんだよ」


小さな子どもの無垢な考え。センリは女の子の頭をやさしく撫でる。


「でもね、でもね!センリお姉ちゃんがいつか絶対このたたかいを終わらせて、一族を守ってくれるんだって、母様がいつも言ってるの!」

女の子はにっこりする。


『うん!必ず……戦争はなくなる。いつか、絶対に』

センリは女の子の小さい体をそっと抱きしめる。女の子は嬉しそうに笑う。


『約束だよ』

センリは小指を出して、指切りをする。
こうして何度誓ったことだろう。戦場に出て見えない血の涙を見る度に誓いを思い出す。

親を殺され、兄弟を殺され、その仇を打つため一族は戦を繰り返す。そこを脱しなければ平和が作れない事はセンリには分かっていた。

傷つき大切な存在を失った人々にそれを言うのは辛かった。憎しみはなにも生まないのだと、皆に言う事は本当に辛かった。

大切な人がいなくなる悲しみはセンリにも分かっていたからだ。しかしその悲しみから生まれた憎しみは結局戦いしか引き起こさないのだ。


もちろん怒鳴り返されることもある。
不死であるあなたには分からないと突き放されることもある。

それでも、いつかくる戦争の終わりを、先だけを見つめ、センリは諦めなかった。


戦場では柱間と度々一騎討ちすることもあった。圧倒的に強い柱間の相手はマダラかセンリくらいにしかつとまらないからだ。

そんな時、周りには分からないように二人は会話をしていた。


『柱間、千手のみんなの様子はどう?』


キン、と音を立ててお互いの刀を突き合いながら、小声でも聞き取れる距離でなるべく唇を動かさずにセンリは呟く。


「少しずつ…終わらない戦争に痺れを切らす者が現れてきている」


二人は一旦刃を離し、まるで本当に戦っているかのように斬り合いをする。傍から見ればそれは敵同士戦い合っているようにしか見えない。


「早く行けばあと数年後にはこの戦争を終わらせることが出来かもしれない」

その小声の言葉にかすかにセンリは目を見開く。


『確かに…まだ今は、うちは一族に休戦協定を言うのは早いかもしれない…逆に士気を上げることになりそう。柱間の言うとおり、もう少し…もう少し待って』

柱間はその言葉に小さく頷く。

この密談がお互いにバレればそれこそ戦争を終わらすどころか、確実に悪化する。二人は細心の注意を払っていた。むしろこの二人だからこそ出来たことだろう。


「センリ、それまで……」


諦めるな。

そう声もなく呟いて柱間は木遁を繰り出す。

夢を叶えるために本気で信頼し、そして本気で戦う。二人は共に強かった。耐え忍ぶ努力は他の誰をも凌いでいた。

センリは普段嘘をつかない。し、つけない。
しかしこの柱間との事は絶対にマダラに言わなかった。言えば柱間の千手一族での長の地位も危うくなるし、センリも柱間もこの関係は確実に終わると信じていたからだ。戦争がなくなれば二人がこうして策戦を互いに共有していたことも何でもない、小さな事になる。

結局のところセンリも柱間も、目的のために耐え忍んでいたのだ。

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