- ナノ -

-恋慕-



それからセンリの心の中にはマダラに対して今までとは違う気持ちが生まれるようになった。

なにかあるごとにマダラの存在を意識してしまうのだ。

もちろん戦となれば話は別だ。
戦いに出ればそんな事考えている暇はない。少しでも油断すればそれは命取りになるのだ。どうすればうちは一族が、千手一族が傷つかないか。どれだけ被害を受けさせないか。そればかり考えてセンリは刀を振っている。

気持ちを切り替えられないほどセンリは子供ではなかった。しかしセンリはその気持ちが一体なんなのかに早く気付けるほど敏感でもなかった。

センリはもやもやした気持ちを抱えながら、それからの、日々を過ごしていた。

マダラの方は特に今までとは変わった様子はない。ただ、日が経つにつれて余裕も威厳も出て、成熟した大人の男性になってきているのは間違いなかった。

それを言えばイズナだって同じなのだが、センリにとってイズナの存在は変わることない、かわいい弟だった。

それなのになぜマダラの成長っぷりにだけ目がいってしまうのか。センリは戦のない日は時々考えるようになった。


―――――――――――――――――

この辺りの地域の季節にはそこまで激しい変化はない。夏はいくら暑くても二十五度を越すことは無いし、冬でも何十センチと雪も積もることもない。

しかし今日は特別寒かった。
あと一週間ほどでマダラの誕生日である十二月二十四日を迎えるといった夜だった。

まだ六時になったばかりだというのに完全に日が沈み、星達が顔を出している。


『ジングルベールジングルベール鈴が鳴る〜』


センリはこの上なく寒いというのに上機嫌で家の扉を開く。
ジングルベルを口ずさんでいるがもちろんこの世界にクリスマスという習慣はない。ただ毎年この時期になると無意識にそれを歌ってしまうセンリだった。


『鈴のリズムにひかりの輪が舞う〜』

センリが部屋の襖を開けるとそこには既にマダラがいた。


「えらく上機嫌だな」


マダラは畳に座り火鉢に手をかざし、暖をとっていた。部屋の中はほんのり暖かい。


『ただいま!…あれ?イズナは?』


部屋にはイズナの姿がなく、他の部屋にいる気配もない。センリはマダラの隣に腰を下ろしながら問いかける。


「今日は帰らない」


たまにだがイズナは夜家を空けることがあった。マダラが理由を知っているだろうし、まあ何かしらやる事があるのだろうかとセンリは深くは考えなかった。


『そっかそっか。じゃあご飯作るね。このあと一週間は会合も戦もないよな……マダラ、お酒飲む?キヅチのおじさんに貰ったのがまだいっぱいあるんだよね』


センリは立ち上がりながらマダラに問うとマダラが「そうだな」と言うので晩酌の用意をする。いくつかつまみになるようなものを作りお酒とともにテーブルに並べた。

マダラはもうすぐ二十二歳だと言うのにその酒の強さと言ったら確実にタジマ譲りだった。まだ若いのに大人顔負けの綺麗な飲み方だし、悪酔いもしない。戦に影響が出たら困るとそうしているらしい。

この世界には、日本酒以外のお酒はほとんどある。葡萄酒もあるしウオッカもある。多く飲まれているのは焼酎だ。

センリは焼酎用の陶器グラスにお酒を注ぐ。その動作も様になったものだ。


「センリもたまには一緒に飲め」


美味しそうに酒を味わいながらマダラが言う。これでまだ若い青年とは思えない。


『ううん、お酒なんて何十年も飲んでないからやめとく』

センリはこの世界での酒に手をつけたことがなかった。元々酒に弱いのも自身で分かっていた。


「いつまでも律儀だな、センリは」

マダラは眉を下げてセンリを見る。不思議なもので、今となってはセンリの方が幼く見える。


『あっ、ねえマダラ。今日は特別寒かったし晴れてたから、帰ってくる時星がすごい綺麗だったの。食べ終わったら一緒に見に行こうよ!』


センリはふと思い出し、嬉々としてマダラに提案した。


「こんなに寒いのにか?」


マダラは嫌々と言った様子だ。こんな寒い日の夜に出歩くなんて想像したら妥当な判断だ。


『いっぱい着れば寒くないよ!』


センリのめちゃくちゃな言い分に少々呆れながらもマダラは輝く笑顔を見たら嫌だとは言えなかった。

マダラはしっかり晩酌し、センリはちゃんとそれに付き合ってから寒空の下、あの川辺に向かうのだった。

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