-恋慕-
そんな中、少しずつ変わっていくこともあった。
センリが一族に戻ってから三年と半年も経つと最初の頃より争いが沈静化していく。戦の回数も月に何度かと少なくなっていく。
そうすると一族の中に出てくるのは小さな余裕。戦い漬けだった生活が少し変わるのだ。
マダラは二十一になり、イズナも十八の誕生日を迎えたある春の夜。センリは一族の者に修業を申し込まれ、それが終わりその男を家まで送っていた。
「あの、センリさん。今日のお礼と言っちゃ何だが……少しお茶を飲んでいかないか?」
その男はキリトと言う青年だ。子どもの頃から知っていてよくセンリに懐いていた。
キリトは自分の家の前で立ち止まり、どこか恥ずかしそうにセンリに言う。
『うーん。今日はマダラもイズナも会合で遅そうだし…まだ七時にならないしね。いいよ!少し休ませてもらおうかな』
考えた末センリはキリトに向かってにっこりする。修業で疲れたことだし少しお茶を貰ってから帰ろうとした。
「本当に?よかった」
キリトは驚いたが、安心したような表情をする。
『うん。ちょっとお邪魔させてもらうね』
センリがそう言うと、キリトが玄関を開けて嬉しそうにセンリを迎え入れる。
しかし、その時感知タイプでもあるキリトにある感覚が走る。
センリはキリトが突然自分の方を見て固まるのでどうしたものかと首を傾げる。
『どうしたの?』
しかしよくよく見ると、キリトはセンリではなくその後ろを凝視していた。
「…マダラ様」
キリトが呟くように言う。センリが自分の後ろを振り返るとそこには会合に出ているはずのマダラがいた。
『あれ?マダラ早かったね!』
キリトが冷や汗を流しているのに気付きもしないセンリがのほほんと言う。しかしマダラは何故か鋭くキリトを睨んでいるではないか。
「こいつに何か用か?」
マダラはセンリの言葉を無視してキリトに問いかける。それは静かな声だったがキリトに対する敵対心のようなものが感じられた。
「…そ、それは」
キリトはその抑えた冷徹さに唾を呑んだ。なぜマダラが一族の長なのかキリトはやっと理解したような気がした。
『キリトが少し休んでいきなよって言ってくれたの。マダラもイズナも遅いだろうからお茶を頂いて帰ろうとしたんだ』
センリが楽しげにマダラに説明する。マダラも恐ろしいがセンリの鈍感さも恐怖を覚えるレベルだ。
「ほう。そうか」
キリトはマダラの不敵な笑みに背筋が凍った。その眼は写輪眼ではないというのにそれに近い何かを感じた。
『マダラも一緒にお茶を貰っていく?』
センリが提案するがキリトは慌ててそれを制する。
「い、いや!マダラ様も帰ってきたことだし……やっぱりセンリさんも一緒に帰った方がいい!」
いつになく慌てた様子のキリトをセンリは不思議そうに見ていた。
「言われなくてもそうするさ。センリ、帰るぞ」
マダラはキリトを一瞥すると、センリの手首を掴み、キリトの家を出る。
『えっ?ちょ…マダラ……あっ、キリト!また今度ね!』
マダラの力に勝てるはずもなく、センリは訳が分からないままマダラに連れられていった。
キリトは苦笑いしながらそれを見送る。
「(…殺されるかと思った!同族だけど!)」
マダラがいなくなると、キリトは盛大に息をついた。あまりの恐怖に息をするのを忘れていた。
この日、キリトは一族の長の真の迫力を心の底から味わった。
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