- ナノ -

-恋慕-



世界の流れる時間はセンリにとっては過ぎてしまえばとても短く感じる。

何度も戦場に出ながら、センリはその時を待っていた。

しかし、センリが戦い続け二年が経ってもまだその時は来ない。
ただ、センリは黙ってこの時を待っていただけではない。センリはマダラに休戦をするよう求めた。


『マダラ、このままずっと戦争を続けるつもり?』


戦い漬けの毎日の中で何度かセンリはその言葉をかける。しかしマダラの表情は歪むばかりだった。


「…そうするしかねェんだ。誰もが納得するような終わり方なんて…」


マダラはそう言うが、心の奥では分かっていた。一族の中でほんの一部だが、戦争にもう出たくないと言う者がいること。
しかしその時点ではうちは一族の大多数の者達は戦いを望んでいた。家族の仇、復讐として戦うことをやめたくはなかった。

千手一族と手を組み、戦を終わらせるのはそれ相応の時間がかかりそうだとセンリは覚悟した。


『私はまだ諦めてないから』

センリがマダラにそう言う。
それがどういう意味なのかマダラには理解出来た。


「…まだそんな事言ってるのか。戦に出てまでそう思うのか、お前は……」


マダラはセンリの澄んだままの心にはいつも驚かされ、もう文句も言えないくらい呆れていた。センリがどんなに頑張ろうとこの戦が平和に終わることは無いとマダラは何度も言い聞かせた。

だがそんなことではセンリの心は折れなかった。

いつしかマダラはセンリに怒ることをやめた。センリは天性の馬鹿で、誰も曲げることの出来ないくらい真っ直ぐな人間だった。

自分とは正反対といっていいほどのセンリの清々しさにマダラは勝てなかった。


しかし正反対だからと言って相性が悪い訳では無い。むしろマダラとセンリは周囲が驚くほど息が合っていた。

それは戦場では大きな戦力になった。
戦場でのマダラとセンリの連携は目を見張るものがあった。二人のコンビネーションは完璧だった。
マダラをよく理解しているセンリだからこそ為せる連携だった。
センリはマダラが何を考えどう動くのか、次にどんな攻撃を繰り出すのかよく理解していた。

そしてそれを理解した上で刀で敵を斬るのだった。


柱間は自身のオリジナルの術である、“木遁”を使う。生命に力を宿し、それは木となり柱間はそれを操ることが出来た。

この頃から柱間は唯一の木遁使いとして名を馳せていった。その力は強大で誰も太刀打ち出来ないと言われた。

柱間に対抗できたのはマダラ、そして木遁を征することができたのはセンリ。ただ二人だという噂が一族たちに拡がった。

センリの力は簡単に言えば光と時間。
柱間が繰り出した木遁の木々を瞬時に成長させ、そして枯れさせることができた。

しかしセンリはあまりその力を使うことをしなかった。時間を操るのはカルマの力だ。あまり使い過ぎるなとカルマから念を押されていた。
それにそんな事をしなくてもセンリの強さは見ずとも分かった。

千手一族には木遁の柱間が、うちは一族には万華鏡写輪眼を持つマダラが、そしてその二人の名前が出るところには必ずセンリの名前も出た。近隣の国でその存在を知らぬ者もいないようになっていく。
いつかタジマが言っていたように、戦場に出て戦えば戦うほどセンリの名前も知られていくことになったのだ。


一族の中で万華鏡写輪眼を開眼しているのはマダラとイズナだけだったが、センリは一族の皆にあまりその眼を開眼してほしくはなかった。

万華鏡写輪眼の力は強大だ。
写輪眼でかけるよりもかなり強い幻術をかけることもできるし、様々な術の効果も格段にあがる。

マダラは須佐能乎という、身体がチャクラで構成された半透明の巨人のようなものを出現させる事が出来た。忍術、体術に対して絶大な防御力を持っていて攻撃力にも優れている。ハゴロモやインドラが使っていたあの術だ。

しかし須佐能乎の使用には大量のチャクラを消費し、全身の細胞に凄まじい負担が掛かる。高い身体能力とチャクラを持たない人間には成す事の出来ない技だ。

そしてその万華鏡写輪眼の使用を続ける事で、恐ろしいリスクもあった。

視力低下だった。

タジマが亡くなってからセンリが現れるまでの一年にも満たない間で二人の…特に万華鏡写輪眼を使用してきたマダラはかなり視力が悪くなっていた。

センリは二人の視力低下も治すことが出来た。センリは怪我にしろ病気にしろ元々の状態に戻すことが出来る。もとの状態…つまり万華鏡写輪眼を使用する前の状態まで戻すことが出来るのだ。

だがセンリはあまり気は進まなかった。視力低下を治してしまうことでさらに二人は万華鏡写輪眼を酷使してしまう。しかし目の前にそんな二人がいるのに見て見ぬ振りはセンリには出来なかった。自分の甘さはわかってはいたが、二人になるべく万華鏡写輪眼を使わないようにと忠告するのみに留めていた。

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