- ナノ -

-恋慕-



戦場は地獄だ。

助けられたかもしれない仲間が目の前で死ぬ時もある。残酷な殺され方を間近で見なければならない時もある。

戦が終わってそこに残るのは、仲間の死体とおびただしい血。煙、鉄、泥の臭い。漂うのは悲しみと虚無感のみだ。

正直一族の者達は、底抜けに明るく、辛い出来事など経験した事のないようなセンリが戦を経験すれば何らかの変化はあると思っていた。初めて戦に出る忍はその地獄を経験して涙を流したり、叫び狂ったり、現実に目を疑い驚いたりするものだ。当然センリにも何か変化するものがあると思っていた。

しかし、センリは戦い、何人もの仲間が死ぬのを見て、自分の手で誰かを傷付けようと、柱間を切りつけようと、その心が揺らぐこともなかったし、荒むことなく常に澄んだままだった。


それがセンリの本当の強さだった。


マダラとイズナは、戦場を経てもなお真っ直ぐと変わることのないセンリを見て安心したし、敬畏のようなものを抱いていた。

あのセンリが戦場で戦っているというだけでも有り得ない事だというのに、その折れることの無い真っ直ぐな心に驚愕した。





それに、戦乱を離れ家に戻ればそこにはいつものように笑顔を振りまくセンリがいた。

今までのように三人で食事をとり、一緒に暮らした。戦争さえなければ、本当に幸せそうな普通の家族だった。



『…んん……よし、イズナは170センチだね!』

「あんまり伸びてないな」

『マダラなんか179あったし…二人とも私よりかなり大きくなったよ!それにイズナはまだ伸びそうだしね』

「センリ姉さんは…………えーっと、157、か。うん…姉さんチビだな」

『酷い!気にしてるのに!』

「ゴメンゴメン。でもボクは小さい姉さんの方がいい」

『??』

「ナズナみたいで」

『うん?イズナ?』

「ボクじゃなくて……ナズナっていう野草。撫でたいくらいカワイイからナズナっていう名前になったんだ。姉さんみたいだろ?」


センリとイズナは本当の姉弟のようだった。普段おっとりしていてイタズラっぽく少々馬鹿なところがあるセンリだったが、大きくなりしっかりしてきたイズナはそんなセンリがかわいくて仕方なかった。

周りから見たら兄妹だが、根本的なところは姉弟の関係に近かった。特にマダラは、弟が本当に笑うのはセンリと自分の前だけだと分かっていた。


たった一人の自分の弟と、帰ってきた大事な人。

何としてもこの二人だけは失うわけにはいかなかった。


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