- ナノ -

-恋慕-



センリが戦に出る事に至ってはイズナの方が反対した。イズナはまだあまりセンリの力を知らない。戦場は危ない、の一点張りだった。

しかしセンリの固い決意、それから実の兄であり一族の長であるマダラがそれを認めている。

いくら反対したとはいえ最終的にしぶしぶだったが、イズナも認めるしかなかった。


「絶対に、死なないで」

イズナは心配そうに、センリに何度も言った。それはもはや懇願に近かった。

もちろんセンリは十中八九殺されることはないだろう。しかしセンリにもまだそのような窮地に陥ったことは無かったので分からなかった。

だがセンリはイズナと約束した。
イズナとマダラを残して死なないことを。


一族の者達もそれに従った。無論長であるマダラに刃向かう事はあまり無いのだが―――。



カルマと再び出会った時に服をいつの間にか新調してくれたらしく、この時代にいてもそれほどおかしくない程度にはなった。

しかしセンリがうちは一族にいればやはり目立つ。そうなれば敵の目を引きターゲットになりうる。そう言ってマダラはうちはの家紋が入った服を用意しようとしたがセンリは断った。

自分はどう頑張ってもうちは一族になれないし、センリはセンリでいるつもりだった。

普段穏やかで他人の意見にも耳を傾けそれを受け入れてくれるセンリだったが、こういった時の考えは決して変えない事をマダラは分かっていた。ふとした時に頑固になるセンリに溜息をつきながらもそれを了承する他なかった。

ただ、長の座がマダラに変わってからは、特に未熟な子どもは戦場には出さない方針で奨めていた。親子とはいえ、タジマとマダラとでは一族の戦闘方針については違う部分の方がよく目立った。特にその点については父と子とでは意見がかなり違うようだ。


『そっか。じゃあこれからは小さな子が死ぬような事はないかもしれないね。マダラがそう決めてくれた事はとてもいい事だと思う』

センリはマダラの方針にはもちろん賛成だった。


「……お前はよく俺の父に相談してたろう」


マダラがセンリをちらりと見下ろしながら言うと、センリは顎に手を当てウーンと少し考えた。
確かに、タジマに対しては煩わしいと思われるくらい戦のやり方については口を挟んでいた。だがそれを言うのはいつもイズナやマダラがいない場面でだったので、センリは不思議そうにマダラを見上げた。



『知ってたの?』

センリの問いかけに、マダラはこくりと頷いた。


「お前はいつでも子ども達の命を優先するやり方を持ち掛けていたろう。それがあったからこそ恐らく、その当時の俺達は守られていた。そもそも幼い子どもがいなくなれば俺達一族はお仕舞いだ。未熟なうちに死ぬより、よく養成させてから戦場に出た方が健全だろう」


マダラは、いつか幼い頃に盗み聞きしていた父とセンリの会話を鮮明に覚えていた。あの時弱い存在だった自分達を守ろうとしてくれていたセンリの意思を、次は自分達が引き継いでいかなければならないとマダラは思っていた。

センリは突然頼もしくなったマダラを見て、心から嬉しくなり微笑んだ。



『ありがとう、マダラ。そんな風に考えてくれてるんだね。子ども達も安心してると思うよ』

「別に…そんな風に言われるような事じゃねぇ。俺自身が、一族達の戦いを側で見てきて、そう判断しただけだ」


まるで子の成長を喜ぶ母のような表情のセンリを見て、マダラは突然恥ずかしくなって目を逸らした。


「もう俺もイズナもガキじゃねぇんだから、自分の事くらいは自分で出来る。お前に守ってもらわなくても大丈夫だ」


素直じゃないマダラの言葉にセンリは楽しそうに笑った。何となく、マダラが思っている事が分かるような気がした。



そしてセンリの初出陣は一週間後に訪れる。そう……千手一族との戦いだ。

やはりセンリの強さは圧倒的だった。

柱間が一族に何か話してくれたのか、初めこそ驚きを見せていた千手一族もセンリをきちんと敵として見て戦ったし、柱間も扉間もセンリに容赦はしなかった。


体術、技の精度、術の威力、体力、そしてチャクラの量、そしてそれをコントロールする力。
どれをとってもセンリはずば抜けていた。その力は柱間をも凌駕する勢いだったが柱間も、それからマダラにも分かっていた。センリは全力ではないと。センリが本気で戦った暁には、千手一族は何分ともかからず、確実に負ける。
それほどセンリの存在は大きな力を秘めていると分かっていた。

センリの実力にはうちは一族の者達も驚愕した。戦に出たのは初めてだと言うのにその動きはまさに熟練の忍の動き。改めて光の巫女という人並外れた存在なのだと実感していた。

センリの実力は圧倒的に高かったし、千手一族が束になって掛かってきてもセンリはそれを一瞬で跳ね返すくらい卓越していた。

もちろん人を斬る事はセンリにとって生やさしいものではなかったが、センリの覚悟はそれ以上だった。

センリはなるべく体術と剣術だけで戦った。戦場が落ち着き、一族に戻れば皆を治療しなくてはならない。そのための力はとっておきたかった。
そして戦いが終わるとセンリは怪我人の治療にあたる。今回はそこまで悲惨な状況ではなかった。それは確実にセンリがいたからで間違いなかった。

しかしそれは千手一族も同じ。センリがうちはの者を治癒している時より数時間遅れて、センリがその刀で斬った傷が次々と消えていっていた。

柱間と扉間はそれを見てセンリは本当にこの戦争を終わらせる気なのだと悟った。

こうしてセンリの、戦争を終わらせるための耐え忍ぶ…忍としての生活が始まった。

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